NPO法人イー・ビーイング
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ローカルセンサーを磨け

 謎めいた変形菌がいる。
 この菌は、エサが豊富な時には、気楽な単細胞生物であるのに、エサが少なくなると多細胞生物となる。
 景気の良い時、都会でフリーターなどしていた若者が、不況になって田舎の家に帰るようなものだ。
 誰がこの変身を指揮しているのか、まだ解明されていない。
 仮説として、一つひとつの単細胞菌が、状況を把握するセンサーを持って、フェロモンを放出したり、停止したりして状況を克服する術を持っているというものである。
 みなで集まって速く動いてエサを取ろうとしたり、エサが豊富になると、また単細胞に分かれていく。
 これは凄いことである。
 グローバルな状況を上位菌が把握し、ローカル菌に集まれと言っているのではなく、ローカル菌が互いに情報を出し合って共生の姿を創発しているのである。

 次は、エチオピアの遊牧民のアファール族の習慣を語る。
 この遊牧民は、情報(duguダグ)を聞き、共有し生活の為に活用している。
 遊牧による牧畜を生業とする族は、何千年もの間に殆ど淘汰されたが、アファール族は生きぬいている。
 なぜか?
 彼らは別のアファール族と出会うと、何をしていても、どこへ行こうとしていても、腰を落ちつけてダグの交換をする。
 そこで家畜と人間の病気から、いろんな土地の情報を入手するのである。
 ここでのダグは、単なる客観的な事実に加えて、それぞれの解釈が添えられているのが特色である。
 個々のローカルセンサーが族を維持させているのである。

 1990年初頭のブラジルの話である。
 当時の国民1人あたりの所得は5,000$で、2012年で言えばシリア、パラグアイ、スリランカの辺りである。
 このブラジルは、エイズの爆発的な発症に困惑し疲弊していた。
 当時、エイズ治療の抗レトロウィルス薬は、1人当たり12,000$かかり、国民所得の2倍以上の支出は困難として、世界銀行は、羅患している人の治療はあきらめて、予防に徹すべきと判断していた。
 しかしブラジルはあきらめなかった。
 治療費を捻出する方法を模索し、世界貿易機関(WTO)の協定の中で、国家の危機に際して特許法を侵害することが許されるという条項に目をつけたのである。
 つまり抗レトロウィルス薬のジェネリック品を製造する権利があると主張し、生産し患者に無料配布したのである。
 そして配布すると決まれば、全国民が知恵(家庭医とNPOの連携など)を出しあい薬の配布をし、ともに検査をしたり、予防の為の啓発も行ったのである。
 劇的にHIV/AIDSの制圧に成功したのである。
 ブラジルの識字率は低かったにもかかわらず、服用規定の遵守率はアメリカ、カナダなどと同程度であった。

 この3つのケースを考察すると、それぞれが状況によりリーダーとなり、フォロアーになり、相互作用を生み出して生きていることが分る。
 サァ、私たちは粘菌の如く、アファール族のようにダグ重視し、ブラジルHIV/AIDS危機の時、全国民が立ちあがった如く、私たち一人一人がローカルセンサーを磨き、自立し、考え、行動をすれば、社会を動かし社会貢献もできるというものである。

※現在、ブラジルの1人あたり国民所得(2012年)は11,000$で世界61位である

理事長  井上 健雄

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