NPO法人イー・ビーイング
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中山間地域農業の危機

 今、農村に吹こうとしている風は、TPPを控え、企業化、効率化、大規模化、ブランド化、輸出化、六次産業化等々、混迷度を高めている。
 この風で農村が豊かになるなら、大変結構なことである。
 そうなることを期待しつつ、私は農村の現状を農林水産省の資料より、分析しまとめたものを提示する。

中山間地の危機
市町村数(比) 農業
所得
1990
÷1985
人口増減
1990
65歳以上
構成比
(イ)都市的地域 651 20.1% 3.0% 10.3%
(ロ)平地農業地域 802 24.7% 147 2.2% 13.0%
(ハ) 中間農業地域 1,055 32.5% 90 △1.3% 14.6%
(ニ) 山間農業地域 738 22.7% 52 △5.3% 16.1%
(ホ)中山間地域 (ハ)(ニ)計) 1,793 55.2% △2.3% 15.0%
(ヘ)全国計 3,246 100.0% 100 2.1% 10.3%

※全国平均を100とする
(農林水産省 経済局 統計情報部 資料等からイー・ビーイング作成)

 これを見ると農村、特に中山間地域の数値は、厳しい。
 全国3,246市町村のうち、中山間地域は1,793。市町村の中、55.2%を占めている。
 農業所得は、全国平均100としたとき、(ロ)の平地農業地域は147を記録しているが、(ハ)の中間農業地域と(ニ)の山間農業地域はそれぞれ90、52と十分な収入をあげていない。
 もう少しデータを分析すると、人口は1985年と1990年を比べると、(ハ)(ニ)は△1.3%、△5.3%と人口減少の上、65歳以上構成比も(ロ)が13.0%に対し、(ハ)(ニ)とも14.6%、16.1%と高齢者比率が高くなっている。

 しかし(ハ)(ニ)の厳しい環境の中でさえ、中山間地域農業は、全国生産額シェア(90年)において、畜産46.4%、果実43.6%、米35.7%、野菜27.9%を占めている。
 この悪条件の中で大変な頑張りである。
 しかしこの数値を今後も守れるかどうかになると、難しい。
 冒頭に述べた風は、(ホ)にとっては特に厳しい逆風となるかも知れない。
 この風が効きそうなのは(ロ)の平地農業地域であろう。

 しかしこの(ロ)だけで強い農業が実現する筈もないのである。
 健全な(ハ)(ニ)なくして、国土の保全、環境保全、生物の多様性等々を含め、日本国・日本国民の生存は危機となる。
 なぜならこれら地域の果す公益機能(水田が国民にもたらす外部経済効果、洪水調節効果、表土浸食防止、観光保健休養効果…)は、中山間地域が壊れれば、この公益機能は消滅するのである。

 中山間地の危機は、農業を超えた国土維持機能のあり方として考えるべきものである。
 国が、国土維持支援をマイナス税金として負担することも一つの方法である。
 私たち一人ひとりの国民は、中山間地域農業の持続性のために地域生産物を特色あるものに育て、それを加工し、消費者に販売する六次産業化に取り組みつつ、地域の国土・生物多様性などトータルに守る仕組みを構築すべきである。

理事長  井上 健雄

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