NPO法人イー・ビーイング
NPO法人イー・ビーイング
イングヴァル・カンプラード

 4月のありがとうで、戦略家イングヴァル・カンプラード(イケア創業者)を6月の挨拶で紹介するとしていた。
 4月のありがとうで触れたことは、戦略家、スーパーマネジャーは、自分の力を過信し、どんな業界でも自分の能力、戦略眼があるなら成功できると思っている。しかし業界の傾向を知らずして自己能力の獅子奮迅では、結局小さな成功か大きな失敗に終わることが多いと説明した。
 そしてGEのジャック・ウェルチの大胆な事業売却の話をした。
 誰にとっても、インダストリイ・エフェクトは、基本的に避けられないのである。

 この難しい課題を抱えるインダストリイとして家具業界がある。
 この業界では古い話であるが、アメリカを代表する住宅・商業用建材の総合企業マスコを考察してみる。
 当マスコは年間売り上げ11億5千万$、29年連続増収を記録していて、ウォール街では「日用品の巨人」と呼んでいた。
 そこのスーパーマネジャーCEOのリチャード・マノージアンは、数々の改革を重ね日用品において大成功したのである。
 そこで次に「家庭用品のP&G」になろうと、家具業界への進出を決定した。
 マスコは、高い製造技術、秀れたマーケッティング手腕、強力な経営能力を持っていた。
 誰もがマスコは家具業界でも成功するだろうと考えていた。

 しかしマスコは見事に失敗した。
 2年間で最高級家具のヘンレドン、中価格帯のドレクロル・ヘリテイジ、低価格のレキシントン・ファニチャーをそれぞれ3億$、2.75億$、2.5億$で買収して、マスコは全米で2位の家具メーカーに躍進した。
 しかし32年間増収してきたのに、2年後には純利益は30%に減少したのである。
 家具部門は14億$の売り上げを挙げたが、営業利益率は6%にも届かず、他部門の14%に比べ貧弱なものでしかなかった。
 結果的に家具部門の売却に至るが、20億$もの投資過ちは、6.5億$の損失という形で終わったのである。

 家具業界の産業効果は魅力的でないのである。
 この業界は、競争意識は高く、供給業者の影響力は強く、客の影響も強い。
 その上、参入障壁と撤退障壁は低い等々非魅力的だったのである。
 業界の自己資本利益率は、タバコなら37%位だし、化粧品、医薬品20%あるのに対し、家具業界の利益率は10%もないのである。

 スーパーマネジャー、リチャード・マノージアンがインダストリイ・エフェクトで失敗したのに、なぜイングヴァル・カンプラードは成功したのか。
 これが、今月の挨拶の筈であったが、失敗例の紹介で紙幅を費やしたので、カンプラードは次月としたい。

理事長  井上 健雄

NPO法人イー・ビーイング
Copyright(C) 2003-2016 NPO E-BEING. All Rights Reserved