Land-Eco土壌第三者評価委員会
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土壌研究会News6 (4)
(5)予防法務の重要性の増加

 このように、紛争になりうる具体的な法的問題点は多様であり、技術的事項は専門的・複雑化しています。紛争を予防するためには、最新の裁判実務や技術的・専門的知見に基づいて、具体的な問題点を把握する必要があります。注意すべき点を(a)〜(e)の5点挙げています。
 まず(a)具体的な取引時の契約書、関連資料のチェックです。契約書については、売主側と買主側で守りたいポイントが違います。売主であれば、できるだけ後で責任を負いたくないので、責任限定条項を入れたいとなるでしょう。責任限定条項を入れること自体は民法で認められていますが、契約書の効力が裁判所に思ったとおりに認められるかはまた別の問題です。A社例えば、裁判所が売主の故意・重過失を認定すれば、契約書の効力は限定されることになります。ですから契約書に書かれた内容が法的にも認められるようにするには、契約以外の事実関係も整理しておかないといけません。
 これは関連資料のチェックや、(e)契約担当者・営業担当者に対する指導・教育の徹底にも関わってきます。民法では、何かを買うときには買主がおかしいところがないか注意するのが大原則ですが、実務的には売主も注意しなければなりません。例えばその土地で過去、土壌汚染に関する事故で重大な被害が出たという事実があり、それを買主に告げないまま売ってしまって、後で買主が発見した場合、重大なリスクがあるのになぜ売主が言わなかったのか、必ず問題になります。ですから、あらかじめ重大なリスクがなかったかしっかり確認して、買主側に何らかの形で伝えておかないといけません。
 その時に、こんなに重大ですと言ったら減額されてしまうでしょうから、合理的に許される範囲で、どのように伝えるかは実務的な問題です。このような場面で、どのようなコミュニケーションをしなければならないのか、問題意識があるのとないのとでは大きな違いです。裁判所は、メールや議事録、書類などを全てチェックします。例えば買主が送ったメールに、「土壌汚染リスクは絶対に負えないから売主の方で何とかしてほしい、その分売買代金は少し割増している」などと書いてあると、土壌汚染リスクは売主側が負担したと認定する根拠になりうることになります。手書きのメモでもよく、場合によってはその方が信用力もあります。取引の際は土壌汚染以外にもいろいろな事を気にしなければならないですし、根掘り葉掘り聞いていたら取引がつぶれてしまうので難しいという場合もあるかと思いますが、その中でどこまで法的なリスクをミニマムにするか、戦略的な発想が必要になります。
 次に(b)標準契約書のチェック・改訂です。同種の取引を何度もされる場合には標準契約書を作成されていると思いますが、これも最新の判例状況をふまえて適宜改訂した方が良いです。例えば契約書によく書いてある内容として、瑕疵担保責任制限条項があります。瑕疵があっても責任を負いませんという内容です。ところが請求権が認められる法的根拠としては、主に債務不履行、瑕疵担保、不法行為の3つがあり、それぞれが独立の法的主張になります。日本法のもとでは、事案によっては瑕疵担保責任だけ制限しても、債務不履行と不法行為によって責任を認められる可能性がありますが、契約書上は瑕疵担保責任のことしか書かれていないケースが多いです。
 (c)デュー・デリジェンスの実施は、(a)とほぼ同じ内容です。買主が行うのは当たり前ですが、売主にとっても重要です。
 (d)セカンド・オピニオンの取得は、専門家や弁護士などの第三者から、あらかじめ意見を貰っておくことです。先ほど裁判での鑑定の話をしましたが、ここで言うのは取引の段階での話です。例えば弁護士に、この取引においてどんな点が問題か、こういう売買条件でいいのかなどを、紛争になる前の、取引前とか交渉中の段階で話を聞きます。私自身も最近はこのようなご相談を受けるケースが多いです。早い段階でアドバイスを求められた方がコスト的にもはるかに低いですから、セカンド・オピニオンの取得はぜひ積極的に考えていただきたいです。浦安の液状化訴訟の第一審判決では、売主の三井不動産が勝訴していますが、過失がないことの根拠の一つが、売る際に専門家の意見を聞いていたことでした。訴訟になった後に困るのではなく、あらかじめしかるべき人に、例えば土壌汚染なら土壌汚染の専門家、あるいは弁護士に意見を聞いておくと、後でリスクが顕在化しても、きちんと対応していたという証拠になります。

 レジュメのこの後の部分は、今までお話ししたことをより具体的に整理したものです。「2.典型的に問題となる土壌汚染・地中障害物等」では、物質ごとに問題になる点を具体的に挙げています。ほとんどの内容はすでにお話ししましたので、かいつまんでご紹介します。
 特定有害物質については、土壌が攪乱されて基準値超とそれ以下の部分が混在している場合に、どう対策範囲を設定するかが非常に難しい問題です。これには判例などで定説がまだないので、これから予防するなら、そのようなことがあり得るという前提で契約をすることになります。
 ダイオキシン類は、非常に毒性が高いです。所沢のダイオキシン事件では、野菜からダイオキシン類が検出されたと報道されましたが、実際には野菜ではなくお茶だったそうです。その報道によって野菜の販売業者の方が非常に被害を受けたので、裁判になって最高裁までいきました。その判決内容を見ると、ダイオキシンは青酸カリより100倍危ないとか、サリンより危ないとか、とにかくものすごく毒性が高いと書いてあります。もっとも、実際に土壌などに含まれるのは特定有害物質などの例に比べて非常に低濃度であることが多いため、単純に比較はできませんが。またダイオキシン“類”というように、異性体・同族体がたくさんあるうえに、それぞれ毒性が違うので、全部換算して毒性の量を計るため、調べるにはすごくお金がかかります。対策費用も基準値の3倍を超えると非常に高額化します。ですからダイオキシン類はかなり深刻な問題ですが、伝統的な契約書だと、特定有害物質についてまでは書いてあっても、ダイオキシンについては書いていない場合も見受けられます。
 また、セイコーエプソンさんの事案では、汚染がまだらでも一団として汚染されている場合は全体として瑕疵であると認定しています。土壌が攪乱している場合には、土壌の入れ換えの経緯などがあれば、基準値超か否かだけではなく、違う切り口で土壌汚染対策範囲を決めるということです。
 油類はこれまでにお話しした通り、基準値がないので対応に困ります。
 「3.紛争における具体的問題点と予防のポイント」では、これらの実務的な問題が法的にはどう位置づけられるかを整理したものです。詳細はレジュメを読んでいただければと思います。
 時間になりましたので、これで本日の講演を終わります。ご清聴ありがとうございました。

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