Land-Eco土壌第三者評価委員会
Land-Eco 土壌第三者評価委員会
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土壌研究会News6 (2)
(2)賠償額の高額化

 紛争の数が増えただけではなく、賠償額が高いものも出てきています。数億円を超えるものも多くありますし、中には数十億となる事例もあります。
 高額賠償・和解が認められた事例を一覧表にまとめました。一覧表の中の東京都板橋区の事案(A社の事案)と仙台市青葉区の事案(B社の事案)は、私が担当して、土壌第三者評価委員会の意見書をいただいた案件です。また東京都葛飾区の事案、東京都の他区の事案も私が担当した事案です。それ以外は他の者が担当した事案ですが、東京都江東区の事案は、築地市場の移転の関連です。大阪市淀川区の事案は、私の担当した案件ではありませんが、X社とY社の案件です。岡山県岡山市の事案はZ団地の案件です。
 ここでまず見ていただきたいのは、賠償や和解の金額です。A社の事案は判決認容額が約7,000万円ですが、これは土壌汚染案件としては比較的少額です。平成20年に判決が出たのですが、平成17年頃から裁判をしており、判決が出るまでに3年ほどかかっています。平成17年といえば、土壌汚染対策法が施行されてまだ2年なので、土壌汚染リスクに対する認識が高まり始めた頃で、土壌汚染案件の中では初期の案件です。東京都の事案は、約50億円と書いてありますが、これは請求額です。和解が成立しているのですが、守秘義務の関係で和解額は公開できません。ただ、相当額の損害賠償を私どもの依頼者が受領しています。
 このように額が大きくなってきているのですが、だからといって、最近になって土壌汚染がひどくなってお金がかかるようになったわけではありません。社会的認知度が高まったので土壌汚染が紛争化しやすくなり、案件が増えた結果、額が大きいものも増えたということだと思います。

 A社の事案とB社の事案については、イー・ビーイングの土壌第三者評価委員会様から意見書をいただいた案件ですので、概要をご紹介いたします。
 A社は不動産デベロッパーで、東京都近郊でマンションや戸建て住宅等を相当数、開発され販売されていました。
 この事案は、A社が東京都板橋区にある3,200uほどの工場跡地を購入された際の事案です。東京都の場合は3,000uを超えると、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」によって、土地の改変時に調査が求められます。そこで売主さんが調査をしたところ、砒素・鉛等の汚染があったので、対策をとられました。その結果は板橋区に届け出て、届出印もきちんと押されていました。A社はそれを見て、大丈夫だと思って買われました。ところが、その後にご自分で調査されたところ、環境基準値をはるかに超える砒素が出てきたので、売主さんを訴えました。
 難しかったのは、契約には「土壌汚染については責任を負いません」と書いてあったことです。具体的には、土壌汚染があった場合は引き渡しから6か月以内に請求すること、なおかつ、要するに損害の1/3だけ支払うということが書いてありました。ところが相談に来られた時点で1年くらい経っていたので、契約によれば請求できません。
 そこで売主さんの調査報告書や対策報告書、板橋区に提出された各種書類をいただき、精査しました。すると、汚染を取り漏らしているのではないか、あるいは、誤った調査・対策方法をとったのではないかと思われる節がありました。そのような状況だったので、契約の効力が争えるかもしれないということで、裁判に至りました。
 結果的には、和解できました。一覧表に約7,000万円と書いてありますが、これは地裁判決の金額です。高裁では地裁よりも良い条件で和解できているのですが、そちらの内容は守秘義務の関係で申し上げられません。
 裁判所の判断は、「瑕疵担保の特約は有効だけれども、売主さんは土地をきれいにして売る義務があり、その義務に違反したので、損害賠償を認めます。ただし契約に1/3と書いてあるので、その範囲でだけ認めます」というものでした。あくまで想像ですが、契約上には売主さんは責任を負わないと書いてあるので、その契約を尊重しなければならない。ところが土壌汚染対策の手法があまりにずさんなので、買主さんを救済しないのは事案解決としてのバランスを失する。ただし、もともと買主さんも2/3はリスクを呑んだはずなので、そこまで認めるのはやり過ぎだろう、という判断をしたのではないでしょうか。
 この判断には法律について特に専門的な知見がなくても、売主さんの立場になって考えてみると疑問が生じるのではないでしょうか。売主さんは、汚染があっても責任を負わずに済むように、契約で責任の範囲を限定したわけです。ところが、きれいになっていないから責任を負いなさいと言われてしまったのでは、汚染があったら契約で責任を限定したはずなのにもかかわらずお金を払わないといけないことになります。
 私は土壌汚染関連の事案を多数担当させていただいていますが、この案件は最近の土壌汚染案件に特徴的な案件だと思います。つまり、ある程度調査も対策もされているのに、後になって汚染が出てくるというケースです。ところが、調査会社や対策会社がずさんだったからそのようなことが起こったかというと、必ずしもそうとは限りません。調査や対策をしたらもう汚染は残っていないということはなく、全面的に土壌を入れ替えない限り、何らかの形でリスクが存続しうる。また、契約書に書いておけば万全というわけでもない。
 ですから、紛争を予防するためのポイントは3つあります。事前の調査はちゃんとしましょう、契約書はきちんと書きましょう、もうひとつ、契約書がきちんと効力を維持できるように取引をきちんとしましょう、ということです。今日私が申しあげたいことは、この3点に集約できます。

 B社もマンション開発をされていて、仙台でスタートし関東まで進出された会社です。
 私が担当したのは仙台の1,200uほどの物件です。B社さんが土地を買われて、開発しようとされたのですが、油汚染が出てきました。油の量は非常に多かったんですが、土壌汚染対策法の特定有害物質はあまり出ませんでした。油汚染の案件ではベンゼンや鉛がよく出てきますが、この土地ではごく限られていました。
 その土地では重油タンクが地下に埋まっていて、開発の過程でタンクを一度地上に掘り出して、もう一度埋め戻していました。その重油タンクから油が漏れ、なおかつ地下水位が高い場所だったので、土地全体に広がったと考えられました。ただし、重油タンクの容量よりも、土地にある油の量が多い様子もあったので、違う原因もあったのかもしれません。
 油汚染で難しいのは、土壌汚染対策法には基準値がありますが、油汚染にはそのような数値基準がないということです。そうすると、それが法的な瑕疵なのかどうかが分からない、あるいは確定しにくいんです。買主さんが瑕疵があるからお金を払ってくださいと言っても、売主さんはそれは瑕疵ではないと言ってお金を払ってくれない。それで裁判になりました。
 技術的な意味での最大の争点は、油はどれだけあると瑕疵になるのかということでした。そこで土壌第三者評価委員会様の意見書をいただきました。最終的には瑕疵だと認めていただき、約3億円の請求を認めていただきました。

 東京都葛飾区の案件は、C社とD社の案件です。これはD社のプレスリリースに出ていますし、基本的な事実関係は裁判情報として公開されています。
 C社がD社から不動産を買い、石炭ガラと油が見つかりました。土壌汚染はそれほどありませんでした。D社の主張は、要するに「石炭ガラは毒性もないし、建物を建てる時にも邪魔にならないので、あっても困らない。かえって水はけがよくなるので、瑕疵ではない。油は基準値がないし、工場跡地なので多少の油があるのは当たり前で、瑕疵ではない」というものでした。そこでC社がD社を訴えたという案件です。
 地中障害物で、大きなコンクリートガラがあって家が建てられないなどの場合は、瑕疵として分かりやすいです。ところが、きちんと家が建つ場合に、石炭ガラが瑕疵だと立証するのは簡単ではありません。ではなぜ瑕疵だと言えたのかというと、処分費用が通常の処分費用よりも高いということが主張の核心でした。これは民事裁判所にとってはかなりお新しい発想だったと思います。専門家の意見をいただいたわけではありませんでしたが、法的に説得的な議論を組み立てるのは苦労しました。裁判所に納得していただくためにいろいろと工夫しました。
 請求は60億円で、その後80億円に拡張し、最終的には20億円の和解で終わっています。減ったと思われるかもしれませんが、20億円は和解交渉の中でC社側が提示した金額とほぼ一致しており勝訴と言えると思います。経験的に、土壌汚染の裁判で請求額がそのまま認定されるのは難しく、1/3程度になる案件はままみられます。

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