Land-Eco土壌第三者評価委員会
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土壌研究会News6 (3)
(3)問題となる法的争点等の多様化

 土壌汚染・地中障害物紛争の争点は、広範かつ多様化しています。
 典型的に問題となる土壌汚染・地中障害物等は、土壌汚染対策法の特定有害物質や、ダイオキシン類対策特別措置法のダイオキシン類、あるいは油、産業廃棄物などがあります。最近では液状化も問題となっており、三井不動産の浦安の液状化裁判が有名です。それぞれの物質について、取引の中でトラブルになりやすいポイントや特徴があります。後ほどご説明する「2.典型的に問題となる土壌汚染・地中障害物等」では、このような物質がある時にはこのようなことに注意した方が良いということを具体的にご説明します。また「3.紛争における具体的問題点と予防のポイント」では、そのような問題意識の中で、あらかじめどのようなことをしておくと紛争が予防できるのかをご説明します。
 このように、最新の裁判実務や技術的・専門的知見に基づいて、どんな点で揉めるのか、どう対応すべきか、具体的な争点を把握する必要性が高まっています。

(4)技術的事項の専門性・複雑化

 先ほどご紹介したA社の事案のように、最近は調査・対策を実施しているのに汚染が発見されるケースが多いです。A社の事案の場合は調査・対策自体が相当ずさんでしたから、裁判所の認定も実質的には売主の重過失を認定していると思います。ただしその他の案件を見ると、それぞれの調査会社さんや対策会社さんはそれなりに社会的に信用度のある会社で、調査・対策自体がそんなにおかしくないケースが多いんです。
 それではなぜ調査・対策したのに汚染が出てくるかというと、土壌調査がサンプリングでの調査であるということが原因だと考えられます。簡単に言うと、土壌汚染対策法では、土地を10mメッシュで区切り、その中央で試料を取って調べます。それで汚染が出てきたら、その10mメッシュは汚染あり、出てこなければ汚染なしとなります。ところが100uに対し、ボーリングコアは直径10cm足らずです。調査の結果に関わらず、汚染はあるかもしれないし、ないかもしれないというのが正直なところです。
 それでは土壌汚染対策法の調査方法が合理的でないかと言えば、もちろんそんなことはありません。汚染に連続性があるなら、出たところと出ていないところの境目に境界がある。だから点の調査で良いのです。
 ところが紛争になるケースでは、土壌が攪乱していることが多いです。最初は汚染が連続していたかもしれませんが、その後に建て増しをしたり、掘った土壌を別の場所へ移動したりしているうちに、土壌が攪乱して、汚染がまだら模様になります。そうすると、見つけられない汚染が出てきてしまいます。もちろん土壌汚染対策法もこのような土地の改変は想定していますから、地歴を調べて、土壌が動いているならそれに従って調査するようにとか、盛土をされたら地表を調べても意味がないので、もとの地盤面から調査するようにと書いてあります。ですが、法律や土壌汚染分野にあまりなじみのない方は、法律に従った調査・対策方法を取っていれば、本当にクリーンだと信じる、あるいは信じたことにするという態度があります。
 土壌汚染対策法に合理性がないと言っているわけではないんです。例えばもっと細かく、1mメッシュで調査すればもっと精緻になると思いますが、そんなことをしたらコスト的に合いません。もちろん全面的にきれいな土壌に入れ換えれば、クリーンだと言える可能性が高いですが、やはりコストがかかります。だから構造的に、100%安全にするのはものすごく難しいんです。これが実務的なせめぎ合いというか、どこで折り合いをつけるのかということだと思います。
 教科書的な土壌汚染対策法の知識をもっていることはもちろん、実態はどのように動いていて、本当のリスクがどこにあるか分かっているかが問われています。逆に言うと、それをちゃんと分かっておかないと、リスクを理解した取引になりません。

 調査・対策に関する技術的事項は極めて専門的・複雑です。
 先ほど油汚染の案件をご紹介しましたが、裁判所に油がなぜ瑕疵なのかを理解していただいたり、汚染がまだらになっている場合にどこまで対策範囲とすべきかを理解していただくのは、簡単ではありません。汚染の場所を確定するために細かく調査をするよりは、全部汚染されているとみなして対策した方が早いですし、コストもかかりません。ですが売主さんは、汚染が出なかったところは対策する義務はないと言いますよね。
 裁判官の方に、技術的なことについて理解していただくには、一般的にすごく工夫を要します。よほど核心を分かりやすく説明しないと十分に理解していただけません。さらに表面的な理解ではなく、私たちの言っていることが正しいと本当に腑に落ちていただける内容にならないと、勝訴には結びつきません。そのようなレベルで技術的・専門的事項を理解してもらうにはどうしたら良いかというのが、実務的なポイントです。

 実務上問題となりうる技術的・専門的事項の例をいくつか挙げています。
 まず、有害物質によって特性が違います。土壌中での移動のしやすさで言えば、ダイオキシンはあまり移動しませんが、油はよく移動します。地下水があるとさらに移動して、隣地まで汚してしまいます。水への溶けやすさも物質によって違います。
 汚染原因・汚染経路も難しい問題です。ひとつの会社さんが使い続けている土地は分かりやすいのですが、転々譲渡されていると、いつ誰が汚したのか特定し証明するのは至難の業です。裁判所が法的責任を認めるためには、ある程度の固い証拠が必要なので、内部告発文書が残っているなどの特別な事情でもあればともかく、簡単には立証できません。また物質によっては、人為汚染か自然由来かも判断が難しいです。
 対策基準の設定については、油が典型例です。数値基準がなく、環境省のガイドラインの判断基準は油臭や油膜です。油臭や油膜が酷かったら瑕疵であるとされていますが、「酷い」というのはあいまいな基準です。
 汚染状況、汚染範囲の確定というのは、例えばまだらに汚染されている場合に、どこまで対策すれば良いかということです。
 浄化工法の妥当性は、さきほどご紹介したA社の案件でも問題になりました。土壌汚染対策には掘削除去、覆土、封じ込め、浄化など様々な方法があり、特に浄化には注意が必要です。土壌を掘り出して浄化する方法もあれば、土壌を掘り出さない原位置浄化もあり、A社の案件では原位置浄化を使いました。ウォータージェットと言って、土壌を高圧の水で洗う非常に革新的な工法で、コストが1/2〜1/3になるということでしたが、うまく浄化できていなかったようです。確かに海外ではウォータージェットのような原位置土壌洗浄の手法が利用されているようですが、例えば砂漠が均一に汚れていて、汚染の濃度を下げるのが目的で、完全浄化を目指さないような場合に有効だと考えられているようです。しかしA社の案件はそうではないですし、汚染物質も重金属、土壌もシルトだったため、そもそもウォータージェットが適用できるのか疑問な案件でした。また、特に原位置浄化の場合には、完全にきれいになったことの証明が難しいです。
 覆土や封じ込めは、自己使用地では増えていると思いますが、取引の対象となる土地、あるいは転々譲渡が予定されている土地の場合には、汚染を残したまま売却するのは一般的に今でも難しいと思います。そうすると掘削除去という選択になりますが、環境省はできる限り掘削除去をするなというご方針ですし、売主さんは覆土で十分だと仰ったりするので、難しい問題です。

 このような技術的・専門的事項を裁判において取り扱う場合は、3つの方法があります。
 1つ目の裁判所による鑑定は、実務的に使われるケースは非常に限られます。
 ほとんどが2つ目の当事者による私的鑑定・鑑定意見書の提出です。例えば、土壌汚染案件のご相談を受けて、これから紛争になるというときに最初にすることは、専門家を捕まえることです。土壌汚染の専門家は、日本にそうたくさんいるわけではありません。また、一方の味方をすると相手方を敵に回すという構造があるので、専門家の方は躊躇して、そう簡単には意見書を書いてくれません。専門家の取り合いになってしまいますから、早い段階で捕まえておくのが実務的には重要なポイントです。専門家とは、イー・ビーイングさんの土壌第三者評価委員会のような専門機関や、大学教授などです。
 3つ目の専門委員というのは、専門的に見識のある方が裁判所によって選ばれて、裁判官の手伝いをするという仕組みで、相当数の利用があります。制度上は専門委員の意見は参考であり、判断の基礎とはしないとされていますが、実務的には専門委員をどう説得するかも非常に重要な問題となります。

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