Land-Eco土壌第三者評価委員会
Land-Eco 土壌第三者評価委員会
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土壌研究会News5 (2)
菅原先生
 それでは、第2クール「土壌汚染対策法改正による影響と土壌第3者評価の役割」に入りたいと思います。
 まず、法律の専門家でスーパーファンド法にも非常にお詳しい増田先生に、この法改正によってどのような影響があるのか、考えをお聞きしたいと思います。
増田先生
 今回の改正では調査の契機が非常に増えましたし、対策の取り方についてもかなり規制が厳しくなりました。
 一番問題なのはやはり、過剰な対策です。スーパーファンドでは、まず汚染状況をよく調べた上で、その土地の用途に応じて非常に幅広く対応しています。我が国の土壌汚染対策法でも、もちろん封じ込めなど色々な対策が認められているはずなんですが、残念ながら取引の世界では、なかなかそれが通用しません。実際にはほとんどが、全量撤去などの買主や利用者が完全に安心できる対策となっています。本当は安心できる対策にも色々なバリエーションがあるんですが、ほとんどの方は全量撤去を希望されます。そのコストがあまりにも膨大なために、ブラウンフィールド化している現状があります。
 ですからそれぞれの土地に対してもう少しきめ細やかに対応し、汚染状況、対策はどの程度で足りるのか、どのような用途に使う予定なのかを踏まえて、それに合わせたリスクアセスメントやリスクコミュニケーションをしなければならないと思っております。そうすれば対策コストは下がると思いますし、ブラウンフィールドも恐らく減るでしょう。しかし実際に何年も前からこの問題に取り組んでおり、多少は理解してくださる方も増えましたが、取引の世界ではまだまだ通用しません。
 これは、その土地が安全に使える土地になったことについての客観的な説明がなく、信頼性が備わっていないからです。この団体が言うなら間違いないという信頼性があれば、多額のお金をかけて必要のないところまで全部掘削除去するような、無駄な事をしなくて済むかもしれない。
 そのような客観的な評価をしていくことが非常に重要だと思っています。まさに第三者評価委員会とはこの為にあるのではないかと思っており、この制度が早く普及して、取引の世界でも信頼していただけるようになれば、もっと効率良く対策できるのではないかと思っております。
菅原先生
 ありがとうございます。今回の法改正によって、ますます土地の信頼性を高めるシステムが必要になってくるとのお話でした。
 現在は掘削除去が大半を占めている状況ですが、今回の法改正によって土壌汚染地が「要措置区域」と「形質変更時要届出区域」の2種類に分かれ、さらに汚染の内容や程度に応じてより合理的な対策が要求されることになりました。
 そのような中、先ほど久保先生がご紹介されましたバイオを使った修復技術も今後ますます期待されると思われますが、いかがでしょうか。
久保先生
 石油汚染についてはガイドラインとなっており、法律には入っていないんですが、汚染地は相当あると実感しています。10,000ppm程度までであれば、バイオが貢献できる部分は大きいのではないかと思います。
 ただし、石油やVOCに対しては微生物がある程度有効に機能しますが、重金属や複合汚染については使えない事も多々ありますので、その区分けをきっちりしなければなりません。我々だけではなく、いろんな会社の技術も含めて総合的に対策を考えていく必要があると思います。
菅原先生
 ありがとうございます。
 昨年のシンポジウムでは、嘉門先生から自然由来の重金属を含む土壌についてご講演いただきましたが、今回の改正ではそういった自然由来の土壌も対象になるということで、土地所有者の方にとってはかなり大きなインパクトになると思います。これはどのように対応すれば良いのでしょうか。
嘉門先生
 今回の改正で自然由来も対象となりました。バックグラウンドが環境基準を超えている箇所は日本中いたる所にあって、大阪でも地下水が環境基準を超えているところが結構あるのですが、土地改変をせずにそのままの状態にしておく場合は、浄化などをしなくても良いんです。掘削して土を外へ持ち出す場合は、自然由来であっても人為由来であっても汚染物は汚染物ですから、適正に処理しなければならない、という意味なんです。その違いをご理解いただく必要があるかと思います。
 岩ずりは土ではありませんから土壌汚染対策法の対象ではありませんが、昨年もご紹介したとおり、国土交通省が暫定版のマニュアルを出しておりまして、誰でもHPで見ていただけるようになっております。ところが岩と土の境界線をどこにするのか、なかなか難しいという問題があります。ですから、土か岩ずりかを判断するような第三者評価があってもいいのではないかと思います。
 また、改正土壌汚染対策法では3000u以上の土地改変の場合は届出ないといけないんですが、建設工事では概ねそれぐらいのスケールはオーバーしてしまいます。そして汚染がありそうな場合は都道府県が調査を指導する。ところが調査をしても汚染が出て来なかったら、調査をさせられた者はなぜ汚染のないところを調査させたのかということで、都道府県に対して訴訟をすることができるんです。今日は増田先生もいらっしゃるのでご見解もお聞かせいただきたいと思いますが、環境省と議論した時には、恐らくそのような訴訟が起こった場合は都道府県は負けるだろうとおっしゃっていました。ですから都道府県は調査せよとは言いにくいかも知れません。
 話は変わりますが、増田先生、私はアメリカでもスーパーファンドはもう壁に突き当たってしまって、特にファンドの確保が難しいので、もうギブアップしようかという話を聞いていたんですが、最近は状況が変わったんでしょうか。
増田先生
 先生がおっしゃるように、存続も含めて見直すべきだという意見は多いですね。実績はかなりあるのですが、浄化コストの問題だけでなく、訴訟が多すぎるなど必要以上の費用がかかっているのが負担になっているのです。それも特定財源を作ればいいのですが、一般財源を使っているということもありまして、特定の人間に対してどうしてこんなにお金を使わなければならないのかと、国民の非難が結構ある。
 以前は汚染サイトを先に浄化してしまうケースがかなり多かったのですが、後から訴訟になって費用が回収できないことも多かったんです。ですから最近はなるべく訴訟をしないで合理的に進めるために、最初からお金を使わないで、汚染者を探して交渉して浄化させるというケースが増えているらしいです。
 我々は単に真似るのではなく、いいところを選んでうまく取り入れなければなりません。例えばドイツは環境対策や廃棄物対策のモデルと考えられていて、始めはいいところばかりあるように見えましたが、何回か調査していくと問題が見つかったりしました。今回もそのようなことが結構出てくるかもしれない。今のスーパーファンドでは膨大なコストや手間が発生していて、アメリカとは予算規模が全く違う日本でそのまま導入するのはちょっと難しいんじゃないかと思います。このあたりも一緒に調査してきたいと思います。
嘉門先生
 有名なラブキャナル事件もついこの前、裁判の結果が出て、汚染者が費用を負担することになりました。だから裁判をやっても、結局は汚染者の負担になるのではないですか。
増田先生
 アメリカは訴訟社会ですから、ひとつの事件で汚染者と州、汚染者と連邦、連邦と州など2つも3つも裁判が発生して、全部決着するには10年単位の時間がかかります。以前私が調査に行った時は、ラブキャナルは色々な汚染除去対策をして、死の町からようやく回復しかけているところでしたが、ずいぶん色々な費用や手間がかかっていました。
 日本でスーパーファンド法にあたるものというと、廃棄物に対する産廃特措法があります。豊島や青森岩手県境の不法投棄事件などに適用されていますが、10年の時限立法で、2013年に予算が切れてしまいます。ですからそこに代わり得る受け皿として、ファンドのようなものができないか模索しています。
 成果についてはまたこういった場で発表させていただきたいと思います。
菅原先生
 先ほど嘉門先生から自然由来の重金属のお話がありましたが、我々第三者評価をしている中でも自然由来の評価は結構出てきました。川地先生も非常にご苦労された経験がおありですが、今後はどのような展開になると思われますか。
川地先生
 確かに第三者評価事例の半分くらいは、砒素が自然由来かどうかの評価です。特に私がいた滋賀県は、水にも土にも自然由来の砒素が結構あるんですね。ですから今までのように掘削除去という考え方でいくと、処分場がなくなってしまうのではないかと思います。また、法律の対象になったから自然由来のものも浄化しなければならないという捉え方をされると、一種のパニック状態になるのではないかと思います。
 ですから先ほど嘉門先生が言われたように、汚染の拡散を防ぐというのが本来の趣旨であれば、土を動かさなければ良いなどの対応の仕方を行政の方にももう少し学んでいただかなければならないんじゃないかという気がいたします。次の話題の豊洲の問題でもそうですが、住民がどんどん要求を出してくるのに答えていると、にっちもさっちもいかなくなるのではないかと思います。さきほど増田先生が、アメリカでは納税者がクレームをつけ始めたとおっしゃっていましたが、日本でも公費を使ってあまり過剰な対策をやりますと、そのようなことが起こってくるのではないでしょうか。
菅原先生
 そういう意味では、今回の改正では自治体の役割もより大きくなるのではないかという気がいたします。嘉門先生がおっしゃっていた調査命令の件も含めて、増田先生いかがですか。
増田先生
 行政は汚染者に汚染の除去等をするように措置命令を出し、汚染者が応じない場合は代執行して費用を請求します。理屈の上ではそうなんですが、実際は措置命令を出すのは非常に嫌がるんですね。なぜなら汚染者が措置をせず代執行をした場合、費用を請求しようと思っても、スーパーファンドでは非常にたくさんの責任者を設定しておりますが、日本の場合はわずかしかありませんので、請求できなかったら税金を使うしかありません。ですから措置命令を出す時点でお金がかかる可能性があるということで、なかなか措置命令は出しにくいらしいです。
 そうは言ってもたくさんの措置命令が出ているんですが、必要がないのに措置命令を出したと裁判になった場合は、確実に行政が負けると思います。措置命令は一種の行政処分ですので、必要最小限でなければならないなどの規制があります。必要以上の負担をかけるような行政処分を課したと認定されると、色々説明をつけても最終的には負ける可能性が高いです。
菅原先生
 そうなると、自治体は土壌汚染の現状把握やデータの集積も非常に大事になってくるんですね。
増田先生
 そうですね、それも客観的な資料が非常に大事です。裁判だけではなく、公害等調整委員会や公害審査会なども含めて、いかに客観的で説得力のある資料を出せるかが非常に重要ですし、判断する側にとっても、よりどころになる判断基準が必要になってきます。
 ですから第三者評価委員会がより普及して、ここへ持って行けば大丈夫というような信頼性があれば、非常に有用性のある制度になるのではないかと思っています。
菅原先生
 今回の改正でバラエティに富んだ対策がなされることが期待されていますが、先ほど久保先生から特に油やトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機物系でバイオ浄化が有効とのお話しがありました。今後の技術動向はいかがでしょうか。
久保先生
 バイオ浄化については実績もかなりありますし、環境省や経産省で微生物の安全性や環境影響の試験などが行われていますね。今、バイオの世界で注目されているのは、汚染物質がなくなるだけではなく、環境修復がきちんとなされたのかということです。
菅原先生
 ありがとうございます。
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