Land-Eco土壌第三者評価委員会
Land-Eco 土壌第三者評価委員会
Land-Eco土壌第三者評価委員会
土壌研究会News1
土壌汚染を環境債務として計上を急げ
(1)アメリカの現状と取り組み

 米国では、すでに大半の企業に環境債務の開示を義務付けている。土壌汚染だけでも、今後30年間に国内30万ヶ所の浄化が必要で、2000億ドル(23兆6千億円)以上の費用が想定されている。
 1980年のスーパーファンド法制定以来、土壌汚染・アスベスト問題などが社会問題化した。アスベストの環境債務だけで、損害賠償を提起されて倒産した企業は70社以上である。
 2001年、FASB(米財務会計基準審議会)がFAS(財務会計基準書)143号で、将来債務全体を含む資産除去債務の開示基準を示したが、推計は簡単ではなく、企業は十分に環境債務を開示しなかった。
 2002年のSOX法(企業改革法)では、米企業に「経営に重要な影響」を与える課題に対応する内部統制への取り組みと、財務報告の厳格化を迫った。このSOX法の要請によって、企業価値に影響を及ぼす環境債務を開示する必要性が浮上した。
 そして2005年、FIN47号(FAS143号の解釈指針)で、資産除去債務の開示は企業の任意判断ではなく、義務であることが明確になった。またFIN47号は、将来債務の推計上ネックとなる処理時期や方法論も整理し、@債務についての十分な情報がある、A債務を評価する合理的な推計可能性がある 場合に定量化を求めている。@Aのどちらか、あるいは両方を満たせない場合は定量化しなくてもよいが、「開示できない理由」を記述することになっている。

(2)日本での取り組み

 日本では「将来債務」を現在評価して開示する会計処理はなじみが薄い。しかし、こうした開示が国際的に求められているため、日本の企業会計基準委員会もIASB(国際会計基準理事会)との標準化作業の一環として、同基準を導入する方針で、年末には新基準が決まる見通しである。早ければ2年の猶予期間後の2009年にも実施される。
 従って、環境債務をはじめとする資産除去債務の評価・開示は、グローバル企業にとって内部統制の強化とも密接に絡む課題であり、企業の社会的責任を財務年面で立証することになる。
 日本の土壌汚染の実態把握は十分ではないが、最近の推計では、少なくとも米国と同規模の対策費用が必要とされている。アスベストもかつて使用した工場の敷地内に廃棄・埋没されているとされる。将来の原発処理については、発電実績に応じた解体費用を計上している例もあるが、その計上基準や債務の見積もり方は、必ずしも明確ではない。
 そもそも、これらにかかる費用を各期に計上する引当金方式では、環境債務の全体額を十分に推計できない。
 日本企業はこれまで環境債務の概念をほとんど持っていなかったので、その償却負担が競争力に及ぶとの懸念もある。しかし、すでに米国上場の日本企業は米基準に沿って開示しているし、少数ではあるが、国内でも自主的に開示している企業もある。

(3)環境債務の意味・財務情報の開示義務2009年にも導入

 環境債務とは、企業の過去及び現在の活動により、企業所有の土地・建物などの不動産、設備機械などの有形固定資産に生じた環境汚染で、その浄化費用が現在ではなく、将来のある時点で必要になる支払い義務のことである。具体的には、工場敷地の土壌汚染、建物のアスベストや含有有害化学物質、地下水汚染、地下タンクの処理、原子力発電所の放射能処理などが挙げられる。
 日本の環境債務のボリュームは、アメリカと同様の23兆円という試算もある。
 現行の土壌汚染対策法や建築基準法では、不動産に汚染があったとしても、被覆などの措置を施すことにより当分は敷地外に拡散する恐れがない場合や、当該財産を売却・処理する意思がない場合は、開示の対象外とされている。
 だが、いずれ浄化費用が発生するのであれば、より正確な企業価値を投資家に示すには、その「将来債務」を企業の現在価値に反映させる必要がある。
 開示対象の環境債務は、法的義務と準法的義務だけでなく、企業間の個別取引も含まれる。現行の環境会計のようなものではなく、あくまでも財務会計の中に環境債務を取り込む視点である。
 開示義務の導入によって、企業にとってはこれまで伏せていた潜在債務を開示・償却しなければならなくなり、収益に影響するケースも予想される。しかし一方で、環境債務の的確な表示は財務内容の不確実性を改善し、資産の健全性をアピールすることでもある。

(4)環境債務の為に必要な客観的評価としての、土壌第三者評価委員会と不動産鑑定士の環境債務評価

 環境債務もまた、債務として計上するのであれば、当然客観的な評価が必要となる。
 しかし、土壌汚染をはじめとする環境汚染の調査や浄化、それにかかる費用の算出、またそれらをふまえた資産価値の判断には、高度な専門的知識を要する。そこで、そのような専門的知識を有する組織とのコラボレーションが不可欠である。
 土壌汚染を例にとってみると、土壌の汚染状況を踏まえた土地の価格の算定は、主に不動産鑑定士が行っている。しかし、不動産鑑定の前提となる調査・浄化対策の計画や結果については、土地の所有者や使用者と調査・浄化対策機関の当事者間でのみ評価が行われているのが現状であり、客観的な評価が行われているとは言い難い。
 土壌第三者評価委員会の意義は、当事者が報告する調査方法、浄化対策技術の運用や結果の判定について、客観的に公平に判断し、不動産鑑定士とのコラボレーションから正確な不動産評価に貢献するものである。

米国・日本の環境債務開示情報(1$=119円)
環境債務(億円)
シェブロン(石油メジャー) 6,822
コノコフィリップス(石油メジャー) 6,428
エクソンモービル(石油メジャー) 5,596
フォード 298
GM 230
三菱商事 179
三菱UFJフィナンシャル・グループ 97
NEC 97
日本の企業も早く真摯な対応が求められている。