
北川正恭先生は、三重県知事をご退任され早2年が経とうとしている。北川正恭先生のご活躍はご存知だと思うが、先生のお話の中からまず知事時代の8年間を振り返りながら、ご自身の経験から大阪市の現状や将来を大変憂え嘆かれているだけでなく、まさしく“ピンチはチャンス”だと、大阪市のことを叱咤激励された。

本著は、北川正恭先生が初めて改革の真髄を明らかにする…8年間に渡る「行政革命」のビジネスモデルを自ら語る…というものです。三重県庁の改革そのものについては、これまでにもいくつかの文献が出版されていますが、本書の前書きにも「殆どが失敗」か「8勝7敗位だったかも知れない」とある通り、実施された改革策そのものを真似ることには余り意味がないように思われます。
むしろ大切なのは、どのようにしてこれらの改革が生まれてきたのか、さらに言えば北川先生のリーダーシップのスタイルそのものが「新しい行政のビジネスモデルへの挑戦」だったのではないかと考えられます。例えば「利害調整型の知事ではなく、目的達成型の知事」という言葉は、「問題提起をし続けることが首長の仕事」という横浜市の中田宏市長の言葉とダブりますし、1万2千時間を職員との対話(ダイアローグ)に充ててきたという姿勢は、日産のCOO就任決定以来、世界中の現場を巡って対話を重ねたカルロス・ゴーン氏の経営姿勢に通じるものがあります。
本書の構成は全4章からなり、「第1章 パラダイムの転換期」では、目的達成型の知事、生活者起点の行政、自己決定・自己責任型の職員について、「第2章 行政システム改革」では、事務事業評価システムや率先実行運動など、他自治体の視察が大挙して押し寄せるような三重県庁の改革について、具体的な内容よりも「生活者起点」という視点から見た意味に重点を置いて語られています。「第3章 首長のリーダーシップと緊張感のあるパートナーシップ」、「第4章 新しい国のかたちと協働型市民社会の創造」では、首長のリーダーシップのあり方や新しい国・自治体の形について述べられています。本書の値段の3/4以上の価値はこの第3章、第4章にあると言っても過言ではありません。是非こちらもきちんと読んでください。
本書は、「三重県庁の改革そのもの」について書かれているのではなく、新しいリーダーシップのあり方を模索した8年間の「新しいビジネスモデルの実験結果」の報告書として読むこともできます。
「行政そのものにはそれほど関心がない」という方も、是非一読されることをお奨めします。