桜のときを惜しんで【4月】
2021/4/28(水)
清水へ祇園をよぎる桜月夜 こよひ逢ふ人みなうつくしき (与謝野晶子)
私は、京都で生まれ育っているので、祇園の夜桜のもつ日常を超えたあでやかさに魅了されてきたものである。
夜桜は、なぜか周りを美しく妖しい異空間に変化せしめてくれたものである。
しかし、4月も中旬を過ぎる頃になると、心あせり寂しさが募りだします。そう落花が始まります。
この悲しさは漢詩では・・・
一片花飛んで 春を減却す 風は万点を飄して 正に人を愁えしむ (杜甫)
そう万花がまだ咲いていても、一片の花が散り始めると・・・もう悲しくなって駄目です。
この花は桃か何かは知りませんが・・・
そしてもう少しすると薫風が新緑を連れてきてくれます。
晴日暖風 麦気を生ず 緑陰の幽草 花時に勝る (王安石)
初夏の晴れた日に、暖かい風に麦の香り立ちのぼり、緑の木かげ、生い茂る草、これらは春の花にもまさる・・・
こんなことを言っている中に、紅顔の美少年だった私も、黒い髪に素華(白い花つまり白髪)をふやしてしまっている。しかし私は、素華も良しとしたい。
こんな風流な日々を送るには、自然のもつ生命力の豊かさに感動した先人の言葉を添えて楽しみたかったのです。
花との別離を惜しみながら・・・
風流な一齣です。
理事長 井上健雄