Land-Eco土壌第三者評価委員会
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土壌研究会News6 (1)
土壌汚染紛争のいま〜最新状況と予防法務〜
2014年10月24日 Land-Ecoセミナー「土壌汚染紛争の予防と第三者評価の活用」より
牛島総合法律事務所 弁護士 井上 治

 ただいまご紹介いただきました、牛島総合法律事務所の井上でございます。本日は、ご多用中お越しいただきまして、誠にありがとうございます。これから75分間「土壌汚染紛争のいま〜最新状況と予防法務」と題してお話しさせていただきます。
 本来であればここで自己紹介をするのですが、今日は土壌汚染紛争が日本のマーケットにおいてどのような状況にあるのか、また法的な状況はどうなっているのかという話の中で、それに私自身がどう関わってきたかを関連付けてお話ししたいと思います。
 私は土壌汚染に関する案件を数多く担当させていただいております。弁護士という立場上、守秘義務がございますので、ご紹介できる範囲は限られるのですが、裁判になっている案件の場合は公開されている情報も多くございますので、具体的な案件の内容も公にできる範囲でご紹介したいと思います。
 今日お話ししたいことは、大きく分けて3つです。メインは「1.土壌汚染・地中障害物取引紛争の最新状況」と「2.典型的に問題となる土壌汚染・地中障害物等」です。「3.紛争における具体的問題点と予防のポイント」については、1、2で述べた問題意識を法的に位置づけるとどうなるかを解説している部分ですので、1と2に重点を置いてご説明したいと思います。なお、本講演における意見は弊職の個人的見解でありまして、弊職の所属する事務所の見解と必ずしも一致するものではございません。

土壌汚染・地中障害物取引紛争の最新状況

 「土壌汚染・地中障害物取引紛争の最新状況」として、5点お話しします。
 まずは「(1)紛争の多発化」です。土壌汚染と、コンクリートガラや油などの地中障害物は、一体となって出てくることが多いです。地中障害物の問題は比較的昔からあるのですが、土壌汚染については最近10年ほどで増えてきています。
 次に「(2)賠償額の高額化」です。最近、賠償額が高くなる案件も増えてきています。
 次に「(3)問題となる法的争点等の多様化」、「(4)技術的事項の専門性・複雑化」です。土壌汚染・地中障害物は技術的な要素を含む問題ですので、法的争点としても難しいですし、技術的な事項についての専門的な知見が必要になってきます。
 最後に「(5)予防法務の重要性の増加」です。ある程度の規模の取引で、土壌汚染や地中障害物が問題になると、費用が高額化しやすいです。調査にもそれなりの費用がかかりますし、対策をとると相当高額になり、紛争化しやすい傾向があります。
 本日はこれらについて、ひとつひとつ具体的にご紹介したいと思います。

(1)紛争の多発化

 この表は、最近、土壌汚染紛争がどのように増えてきているかを整理したものです。この数字は、牛島総合法律事務所で判例のデータベース、判例集、新聞や雑誌の記事などから土壌汚染・地中障害物に関する紛争案件を集めてデータベース化しており、そこから抽出したものです。
 ご覧のとおり、平成15年までは1桁ですが、平成16年〜20年で急増し、平成21年〜25年も約48件と増えているのが分かります。土壌汚染対策法の施行が平成15年2月15日ですから、平成15年以降増えているのは、土壌汚染対策法の施行とほぼ同時期の現象です。
 土壌汚染関連では、他にも平成12年1月に施行されたダイオキシン類対策特別措置法がありますが、こちらは特に影響はありません。ではダイオキシンが重要ではないかというと、そうではなく、汚染物質の中でも危険度が高いですし、調査・対策の費用が非常に高額です。ただし、紛争との関係では土壌汚染対策法の方が影響は大きかったということです。
 では、土壌汚染対策法が施行されて、法の適用になる案件が増えたのかというと、必ずしもそんなこともありません。皆さんが関わるようなビジネス上の取引の場面で、土壌汚染対策法が直接適用になる場合はそれほど多くはなく、むしろ自主調査をして汚染物質が存在するという案件の方が多いのではないかと思います。
 それでは、なぜ土壌汚染対策法と連動しているように見えるのかというと、この時期を境に土壌汚染に対する社会的認知度が格段に上がったというのが、端的な理由ではないかと思います。私の経験でも、土壌汚染対策法施行以前は、土壌汚染についてあまり気にしていなかったのが実態でした。土壌汚染対策法の施行を境に、土壌汚染がビジネス取引上のリスクとして具体的に認識されたので、それ以降は土壌汚染リスクを無視して取引することができなくなりました。
 また、平成22年4月に土壌汚染対策法が大きく改正されました。例えば自然由来の汚染は、これまではあっても良かったのですが、改正によって対策が必要となりました。日本では自然由来の汚染は非常にいろいろなところで発見されるので、実務的には大きな影響があると思います。また調査のコンセプトも、従前に比べると相当精緻化されています。このように、土壌汚染に対する一般的な認識が高まったことが、紛争の多発化の大きな理由かと思います。
 私が土壌汚染の案件に関わり始めたのは、平成12年頃、ダイオキシン類対策特別措置法が施行された頃です。ヨーロッパの会社の代理で、日本で不動産を買うお手伝いをした時に、本国からデュー・デリジェンスのリストが来て、土壌汚染リスクについて調べよと書いてあったのです。そこで売主さんに尋ねると、当時はまだあまり土壌汚染に対するリスクの認識がなくて、「お前は何を言っているんだ、そんなことは日本ではしない。」、「なんて非常識なことを言う奴だ。」などと言われました。ところが土壌汚染対策法の施行を境に、土壌汚染リスクを調べるのが常識になりました。あまりにも劇的に違うので、私自身も非常に実感があります。
 もちろん私は土壌汚染だけを担当しているわけではなく、不動産取引全般に関わっています。典型的な例として言えば、外資のお客さんのお手伝いをして、日本で不動産を買って開発したり、取引先との契約を取りまとめたりしています。その中で、土壌汚染が私の業務の上で相当大きな割合を占めるようになったのは、それが紛争化しやすく、紛争になった場合の負担額が大きいからです。それらの対応をするうちに、そのような案件が集まって、専門性が上がっていったという経緯があり、これまで相当数の土壌汚染案件を担当させていただいています。

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