Land-Eco土壌第三者評価委員会
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土壌研究会News3
隠れた瑕疵・土壌汚染に備えよ
土壌第三者評価委員会 事務局長  八木 綾子
■土壌汚染訴訟判決から

 土地の売買契約時には規制対象となっていなかった物質による土壌汚染も、損害賠償の対象となる――9月25日、東京高裁でこのような判決が出た。
 東京都足立区の3,600uの土地で、問題となった物質はフッ素である。2005年に行った土壌汚染調査により発見され、買主が売主に対し、汚染除去費用を損害賠償請求したという案件である。
 売買契約は1991年で、土壌汚染対策法は施行されていなかった。これが争点となり、フッ素による土壌汚染が「隠れた瑕疵」にあたるかどうかが争われた。

 土壌汚染に関する基準値としては、1991年に土壌汚染に係る環境基準(土壌環境基準)、1997年に地下水の水質汚濁に係る環境基準(地下水環境基準)が制定された。環境基準は法的拘束力をもつものではなく、維持されることが望ましい基準として制定されたものである。
 当初、フッ素は土壌環境基準・地下水環境基準には含まれていなかった。1993年に制定された公共用水域の要監視項目に指定され、1999年に地下水環境基準、2001年に土壌環境基準に追加された。
 その後、2003年に土壌汚染対策法が施行され、指定基準が制定された。

 一審では損害賠償は認められなかったが、二審で一転、「契約後に有害として法規制された場合でも隠れた瑕疵とみなすことができる」とされ、損害賠償が認められた。その額、実に4億4,800万円である。
 売主側が上告する可能性もあるが、少なくとも土壌汚染調査や不動産取引の業界に波紋を投げかけた判決である。

■瑕疵担保責任の落とし穴

 土壌汚染は「隠れた瑕疵」である。
 「隠れた瑕疵」とは、買主が通常の注意を払っても知ることができない瑕疵である。土壌汚染のように調査をしないと発見できないものであり、例えば床下のシロアリや天井裏の雨漏りなどもこれに当たる。そしてこれには、売主自身も知らなかった瑕疵も含まれる。
 「隠れた瑕疵」が見つかった場合、買主は契約の解除や損害賠償請求ができ、これを瑕疵担保責任という。

※ 瑕疵とは、そのものに一般的に備わっている品質が欠如していること。

 土壌汚染そのものは目に見えにくいが、その土地で有害物質を使用していたなどの記録があれば、隠れているとはいっても土壌汚染があると予想できる。
 ところが今回の件のように、有害物質として規制されていなければ、瑕疵の予知・推定は大変困難である。
 今回の判決は、契約当時に瑕疵であったかどうかに関わらず、現在瑕疵がある以上は責任を負わなければならないということである。この判決がどのように決着するかは、今後を待たねばならない。
 従って当事者としては、法律や基準値の制定以前であっても、要監視項目や海外での規制などに注意し、対策を考える必要があるのかもしれない。

■土壌汚染対策法の現状と見直し

 また土壌汚染対策法では、法の施行以前に廃止された特定施設は、法の対象とはならないとされている。
 ところが実際には、法の施行以前に廃止された特定施設においても、土壌調査は盛んに行われている。土壌汚染調査の約8割は自主調査であり、環境省が平成20年9月に発表した「平成18年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果」でも、平成18年度に行われた土壌汚染調査1,316件のうち、法対象は266件しかない。

 このような法の対象範囲の狭さが問題視されており、現在見直しが行われている。
 平成20年3月の「土壌環境施策に関するあり方懇談会報告」では、一定規模以上の土地を改変する際や土地売買の際に履歴調査を行い、土壌汚染調査の必要性を判断すること等が提案されている。
 この中では、法の施行以前に廃止された特定施設も土壌汚染調査の対象となり得ることが示唆されており、今回の件もそれにあたる。

■土壌汚染リスクを避けるために

 このような中で、土壌汚染をめぐるトラブルを避けるにはどうすれば良いだろうか。
 少なくとも売買契約の瑕疵担保責任条項には気をつける必要があるだろうし、今後規制されるであろう物質については、先取りして調査をしておくのも良いかもしれない。
 1年後や2年後ならともかく、今回の件のように12年も先の規制を予想し、先取りするのはなかなか難しい。しかしそうだとしても、社会的常識をふまえながら半歩先の対策を打っておく必要がある。
 そこまではできないとしても、少なくとも今規制されている有害物質について、調査漏れや対策漏れをなくし、リスクを回避する周到さが要求されているのだろう。

 土壌第三者評価は、土壌汚染調査・対策の採用技術や施工管理、またその結果について評価を行うことで、調査漏れや対策漏れを発見・予防し、土壌汚染リスクの軽減に寄与するものである。
 また、土壌汚染が見つかった場合にトラブルとなるかどうかには、リスクコミュニケーションの影響も大きい。客観的な第三者評価で信頼性を高め、効果的なリスクコミュニケーションを行ってほしい。
 利害関係者も市民も、どのような汚染があり、どのような対策が実施され、その土地は安全なのかについて、客観的な第三者による評価と正確な情報を必要としているのである。