安全の思想
2016/4/30(土)
今となれば10数年前だが、六本木ヒルズ54F森タワーで痛ましい事故があった。
回転ドアに挟まれた子供さんが亡くなられた。
あのタワーの回転ドアは2.7tの自重があり、ドアの挟み力は8000N(ニュートン)もあった。
子供の頭なら1000N、大人でも2000Nの力を受けると致命傷となる。
この回転ドアは、制御安全の手は打たれていた。
センサーは足元と天井に取り付けられていた。
しかし子供が前傾姿勢で入ったため、足元センサーは作動せず、また天井センサーは地上より120cm以上のものに反応するよう設計が変更されており、117cmの男の子は感知されなかったのである。
天井センサー設定に問題があったとしても、事故は起こるべくして起こったと言える。
なぜなら、挟み力が1000~8000Nもの殺傷力を持った回転ドアそのものが問題だったのである。
この回転扉のもとは、オランダのブーンイダム社で、日本でブーン・タジマという新会社が設立され、日本にやってきた。
しかし会社の解散などにより、当初の安全仕様の思想が抜け落ちてしまったのである。
つまり重厚感や耐風圧強度を出すために、骨材に鉄などを使い、重くなったのである。
もともと軽く設計されて本質安全に応えていたものが、センサーによる制御安全に取り変わったのである。
制御も大事だが、本質安全の軽量化を貫かなかったことが、大事故となったのである。
企業等は、制御安全だけに頼らず、本質安全に取り組むべきである。
日本において、1960年から子供の死亡原因は、ず~っと不慮の事故が第1位なのである。
子供の好奇心には、ちょっとやそっとの制御安全で防ぐことは困難である。
勿論親御さんの注意義務があるとしても…
最近、ベビーカーが電車のドアに挟まれる事件が起こっている。
ベビーカーの車輪を挟んだまま電車が出てしまっている。
電車のドアは吊りドアであり、上が締まれば赤ランプは消える。
ベビーカーの車輪が挟まった位では、赤ランプはつかないのである。
ベビーカーメーカーとしては、電車に乗る時はベビーカーを使わない様にと説明している。
しかし現実に事故が起こっているのであるから、電車のドアのあり方を変えよということはすぐには無理であり、ベビーカーメーカーが対処すべきなのである。
たぶんこうしたちょっとした事故を放っておくと、ハインリッヒの法則(1対29対300)のように、300のヒヤリとしたミスがあれば29の中事故があり、29の中事故のあとに1の大事故が発生するという恐ろしいものがある。
世のリーダーたる人々は、こうしたことをよく弁えて、小さなヒヤリから手を打つべきなのである。
理事長 井上 健雄