NPO法人イー・ビーイング
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イズミヤ総研 環境エッセイ 「地球の限界 ⇔ 企業の選択」 第5回
グリーン・ニューディールの歴史的意義とこれから
 7回シリーズで「地球の限界vs.企業の選択」というテーマで、環境取り組みと経営のウィン・ウィンの関係をレポートしてきている。
 ここにきて、08年9月アメリカのリーマン・ブラザーズの破綻に端を発する百年に一度という大不況の中、09年1月に誕生したバラク・オバマ大統領が、グリーン・ニューディール政策を打ち出した。これに触れずして、この大テーマを語れば、怠慢の謗(そし)りを受けるだろう。
 History repeats itself.(歴史は繰り返す)学ぶべきは歴史である。過去と現在の変化を踏まえ、螺旋階段を登るように過去の取り組みを質的に変化成長させなければならない。そのための考察が‘私たちのこれから’に天啓を与えてくれるものになるだろう。
 そこでニューディールから筆を起こし、グリーン・ニューディールの意義、そして企業の政策までを俯瞰してみよう。
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■ニューディールからグリーン・ニューディールへ

−ニューディール−
 ニューディールの先駆者フランクリン・ルーズベルトは、1929年に始まる世界大恐慌の時、当時の金で49億$(現在の貨幣価値にすると750億$)もの巨額投資を決断した。その一つとして、皆さんがよくご存じのテネシー川流域開発公社(TVA)がある。
 TVAはアメリカ公営企業体で、1933年5月に設立された。その主事業は、洪水調整や電力生産等の多目的ダムの建設にあった。そして植林、土壌保全あるいは河川整備、窒素肥料その他の化学製品生産を進め、漁業・鉱業・観光資源開発を行った。と同時に、地域経済振興、住民流出防止に努め、地域社会教育計画までも展開した。
 これに対し、安価な電力提供によって民間電力業を圧迫する<社会主義的>なものと非難されもした。一部都市では暴動さえ引き起こしている。
 しかしTVAは電力を供給して生産力を回復させ、電力価格を低下させ物価を引き下げ、この事業により失業者を吸収し、アメリカに好景気を創造したのである。この偉業によりルーズベルトは、大統領選で史上ない四選を果たしたのである。
(写真:TVAホームページより)

−グリーン・ニューディール−
 こうした成功の歴史を持つアメリカで、バラク・オバマ大統領が打ち出したのは、総額1トリリオン$(1兆$)。現在では、この単位でしかニューディールは機能しないのである。つまりたいへん危険な賭けであることを示している。フランクリン・ルーズベルト時のニューディール投資は、当時のGDPの20%にしか過ぎなかったのに、バラク・オバマの投資はGDPの81%を占めるに至っているのである。
 こうしたビッグ・チャレンジのために世界の英知を集め、旧体制をチェンジし、ニュー・ストラクチャーを創造しようとしているのである。We can!
 彼の政策のいくつかを見ておこう。環境に対する政策としては、クリーンエネルギー開発に10年間で1,500億$を投入し、500万人の雇用を創出する。石油代替エネルギー(原子力・太陽電池・風力・水力など)による発電を推進し、200万世帯の住宅を省エネ化する。2015年までにプラグイン・ハイブリッド車100万台を普及させ、購入者に7,000$の減税を行う。バイオ燃料※の生産を促進する。そして、2020年までに温室効果ガス排出量を1990年レベルまで削減する。
 財政面では、総額上限7,750億$の景気対策を行い、道路・空港・学校・通信施設などのインフラ整備に600億$を投入する。米自働車BIG3の救済へ500億$を投資し、2011年までに300万人の雇用を創出する。GMなどはジェネラル・モーターズではなく、ガバメント・モーターズとして政府の管理下に入ってしまっている。
 税制面では、中・低所得者層へ1世帯当たり1,000$の所得減税を行い、国内で雇用を増やした企業に対する優遇税制を設けるとしている。

 アメリカに匹敵するグリーン・ニューディールのできる国は、やはり中国である。アメリカの100兆円とはならないが、1年間に53兆円を投資し、環境とエネルギー分野を強化する予定である。
バイオ燃料について、私は疑問を持っている。SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビヒークル)を満タンにするバイオ燃料のために、私たち1人が1年間食べるとうもろこしが使われるのである。これは愚行である。

−市場の不均衡に挑む政策そして日本にとっての価値−
 このような政策が矢継ぎ早に取られるのが自由資本主義のアメリカとは、信じられないぐらいである。ミルトン・フリードマンは死んで、ジョン・メイナード・ケインズが生き返ったと言う人もいる。もう少し言葉を添えると、ケインズは、市場は内在的に不均衡な状態にあり、単に不況だからと言って市場を円滑にする施策だけでは駄目で、不均衡を是正することが必要だと言ったのである。単なるお金のバラマキが良いとは言っていない。
 とすれば、私たちが不均衡を感じている大きなものは、環境問題への対策であり、年金や介護等の社会保障の充実である。こうした不均衡の把握から、フランクリン・ルーズベルトはTVAを実行し、バラク・オバマはグリーン・ニューディールを打ち出したのである。
 こうした趨勢に対し、日本もグリーン・ニューディールにしっかり乗って世界における存在感を示せるかは、今後の日本の栄枯盛衰を決めてしまうぐらいのインパクトを持っているだろう。政府の質の高いグランド・デザインによる予算編成と、企業の本格的グリーン・ニューディール・シフトがポイントになろう。こうした政策が採られるのなら、企業のグリーン・ニューディールは他の戦略よりも実りの多いものになる。各社で本格的施策を考えて実行する段階にきていることを申し上げる。アメリカ・中国・日本、この三国の成否は世界経済にとっても非常に重要なものとなろう。
 グリーン・ニューディールの大きな課題は、低炭素化社会の実現である。汚いエネルギーからクリーン・エネルギーへの転換である。では次に、グリーン・ニューディールの最大の課題であるエネルギーの現在と未来を考えてみよう。
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■60億人のためのエネルギーがない

 2050年には、4種の人が存在することになる。

(A)10億人: 地球の資源をどんどん使い豊かになった人々で、先進地域に多い。
(B)20億人: 発展途上国から徐々に先進国への仲間入りをしようとする地域に多く、エネルギーのガブ飲み成長で公害や環境汚染に苦しんでいる。
(C)30億人: 経済発展の恩恵に浴しない地域の人。この人々は地球を汚したりエネルギーをあまり使わないのに、被害を受ける人々が多い。
(D)30億人: これから生まれる未来人

 現在、エネルギーのほとんどは、(A)(B)地域の30億人を豊かに生活させるために使われているのである。
 しかるに2050年の地球人口は90億人と予測されている。あと60億人の人々も豊かな暮らしをする為には、新たなエネルギーが必要になる。
 今のままでは質(低炭素)量(少なくとも現状の倍)とも不可能というのが見えてくるだろう。このエネルギーを石油・石炭などの炭素メタボエネルギーで求めると、重大な温暖化を招くと危惧されている。
 この解決のためには、需要の規模を落とすか、代替エネルギーを大量に生産する大規模投資が必要となる。代替エネルギーは、その開発やシステム定着を見積もって、早くスタートせねばならない。なぜなら、現状のシステムは100年以上にわたる努力の結果、機能しているものである。つまり新しいシステムを用意して出発できたとしても、本格的に機能するためには100年(早くできたとしても70〜80年)はかかるからである。
 加えるに、投資金額に桁外れの巨額投資を必要とするようになっている。億$では駄目で、トリリオン$なのである。50億$ぐらいでは、最新の精油所さえ買えないのだから。こうした背景から、バラク・オバマのグリーン・ニューディールが打ち出されたのは、時宜に叶った良策だと考えられる。
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■炭素メタボ克服策からプランAへ

 チャレンジし克服せねば、地球の未来はない。
 2050年はCO2濃度は今の倍の650ppmになると予想されるし、2075年には800ppmになるとされているのだから。とすれば、2050年までに私たちはCO22000億tの排出を防ぐことが要求されていることになる。
 その為には、ちょっと書きあげただけでも以下のような行動が必要となる。これらすべてを実現する位でないと、炭素メタボが防げないのである。

−炭素メタボ対策 例−
1. 20億の車の燃費を 12.75km/L → 25.5km/L にする
2. 車の走っている距離を 16,090km/年/台 → 8,045km/年/台 半分に減らす
3. 石炭火力発電所の効率を50%向上させる
4. 太陽光発電を700倍にする
5. 森林の伐採を一切やめて、焼却をなくす
6. 家庭、オフィス、商店の電気使用量を25%削減する
7. 原子力発電を倍増させ、石炭・火力をやめる
8. 石炭火力発電所にCO2回収装置を設け、そこで発生する水素で15億台の燃料電池車を走らせる









 まだまだいろいろあるが、こうしたことを今やれば、間に合う。
 2000年の世界のエネルギー消費は、13兆ワット。2050年は26兆ワットと予想される。現在は原子力発電は10億ワットを生産しているに過ぎないから、もし原子力発電でこの不足を補うとしたら、原子炉を13,000基建設する必要がある。大まかに表現すれば、これから毎日1基ずつ原子炉を建設し完成させねばならないということだ。
 不可能だと尻尾を巻くのもいいが、1990〜1999年の間に毎年1.1%CO2を増やし続け、京都議定書で志新たにCO2削減に本格的に取り組み出してからでさえ、毎年3%のCO2を増やし続けてきた現代社会の在り方を、冷徹に見据え、上記の施策例のようなことを5つ以上実施すべきである。
 こうした大問題には、賛否両論や反対論が沸き起こるのは当然である。しかし完全にテクノロジーで解決できる僥倖があれば別だが、それなりの我慢と政治的意思も必要であろう。

−グリーン・コード;プランA−
 各企業において、今までの単にグリーンを売り物としただけのグリーン・パーティから、本格的にグリーンをコード(規範)として対処する必要がある。こうした認識のもとに、イギリスの小売業マークス&スペンサーはプランAという概念を打ち出している。

 プランAは、私たちのビジネスと世界が直面している最大の課題に取り組むための、100のポイントからなる5カ年計画である。
 私たちはお客様、お取引先とともに、気候変動との闘いに取り組み、廃棄物を減らし、天然資源を守り、公正な貿易を行い、より健全な国家を創る。
 これを実行するのは、大衆が求めており、正しいことだからである。これがビジネスの唯一の方法としてのプランAであり、プランBはない。

−マークス&スペンサー 持続可能報告書(2007)−

 今回は紙数が尽きたので、次にもう少し深い企業のグリーン・コード展開について述べる。


理事長  井上 健雄

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