NPO法人イー・ビーイング
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イズミヤ総研 環境エッセイ 「地球の限界 ⇔ 企業の選択」 第3回
「新しい常識」への旅立ち
■はじめに

 2009年。新春おめでとうございます。
 この春が皆様にとって瑞祥を齎(もたら)すであろうことを祈念し、言祝(ことほ)ぎ致します。
 昨年のサブプライム問題に端を発する世界同時不況の様相のままで、新年を迎えております。ある意味、疾風怒濤の時代であります。しかし、智慧ある事業者におかれては、このマイナスのトレンドさえ大きなチャンスでもあるはずです。
 小売業は非常にエキサイティングな事業であり、どのような(高級化であれ、低価格化であれ…)波にも対応可能です。特に低価格化は、スーパーの既存のリソースである程度戦える分野であるからです。勿論、小手先だけでザ・プライスやアコレのマネをしてみても徒労かダメージしか残りません。本気で、全精力をかけて、最も秀でた人材等を投入し、既存の組織構造を破壊するものでしか成果に結びつかないと考えるからです。
 こうした事態には、新たな業態の創造が一つの解答です。そして新業態が正解である為には、新たな商品創りがあるべきです。その時、何十万もあるアイテムを対象にしてもゲームにはなりません。そこで業種を絞り、品種を絞り、新たな連携(ex.農商工連携)を創造したものこそが、希望の扉を開けてくれるでしょう。
 このように経済トレンドだけから見ても、そのチャレンジは、血湧き肉踊るロマンであります。しかしこのレポートの本旨とする環境問題のトレンドは、その経済トレンドのバックボーンを形成しているものであります。この基調を下敷きにしない取り組みは、砂上の楼閣でしかありえません。このレポート前2回で、グリーン・ウェーブ(環境取り組み)が企業にゴールド・ウェーブ(売上・利益)を齎すことを述べてきました。
 どんな状況においても、基調と基軸を失わずに主幹事業の再構築への精進をお願いしたいと思います。そこでこのレポートにおいては、グリーン・ウェーブを脅威とするものではなく、再構築の機会とすべきアイデアを紹介しております。
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■新しい常識

 今世界は音を立てて変わろうとしています。企業にいる人は、従来の温情主義に変わり自己責任が問われています。一方で、個人のリスクは増えましたが、リターンも多いチャンスの時代でもあるのです。世界は今までと違います。「新しい常識」という概念が登場しております。「新しい」の意味は今までと全く異なっていることを指し、「常識」とはこれから20〜30年は続く考え方を言います。「新しい常識」の5つを列記します。

(1) 個人の力がかつてなく大きくなっている
(2) 選択肢は増える一方で、必要とされる判断も飛躍的に増える
(3) 技術とグローバル化が一層発展している
(4) 不足する時間の最大限の利用が求められている

 これが「新しい常識」です。さぁ2009年。
 皆様と「新しい常識」の世界でのソリューションを求めて旅立とうではありませんか。
 このレポートでは、「(2) 選択肢は増える一方で、必要とされる判断も飛躍的に増える」に焦点をあてて展開をします。
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■環境取り組みの本質を見誤ったフォード

 ここ十年の傾向として、環境ビジネスはすべて成功するといったような誤った認識がまかり通っています。しかし現実はそう甘くありません。例えば、フォード自動車の取り組みを見てみましょう。
 フォードは、会社の再生を印象付けるため、ミシガン州ディアボーンのフォード工場を20億ドルかけて環境に配慮した工場に変身させました。4万m2もある「生きた屋根」は有名です。
 省エネ・省資源・ソーラーパネル・ビオトープ等々、環境に配慮した工場を建てるのは結構なことです。しかし「新しい常識」から考えれば、自動車産業で大切なのは、排出ガスを減らすことです。図1に「1500cc乗用車による移動」を対象にライフサイクルでの工程連鎖と各工程でのCO2を試算した結果の一例を示します。自動車のライフサイクル分析をしますと、環境をもっとも汚染するのは製造段階ではなく使用段階であることが分かります。自動車の使用段階でのCO2排出量は85%にも達するのです。ここを減らさずして、フォードが抱える環境問題に真剣に取り組んだとは言えません。工場の環境取り組みも重要でしょうが、CO2の観点からすると、視野狭窄でしか捉えていないことが見えてくるのです。この環境負荷を減らせなければ、グリーンな企業とは言えないのです。
 この辺りがハイブリッド車プリウスを発表して大成功を納めつつあるトヨタとの差になっているのです。


図1 1500cc乗用車のインベントリデータの連鎖と
各段階のCO2排出量の試算例
(CEARセンター広報誌 No.21, 2006より引用)

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■環境対応のサクセス・ストーリー ―3M・CEOの挑戦―

 3Mのヒット商品「スーパー・スティッキー・ノート」の物語の一部を紹介します。当時のCEOリビオ・デジモニの鮮やかな判断として評価されたものです。




 このようなサクセス・ストーリーをどのCEOにも求めるのは困難です。そこでこうした判断をする為の視点とし、5つの〈環境の目〉を提供します。


1. 視野を広くする
2. トップから始める
3. ノーという選択肢はない
4. 感情を事実以上に重んじる
5. 正しいことをする


 しかしこの5つをしっかりトレースするのは大変難しいのです。企業は、新規投資、設備の更新、教育、広告等々のトータルの予算配分をどうする等、数え切れない程の意思決定に直面しています。その上、できる限り短いサイクルで数値として読めるコストパフォーマンスを必要としています。つまり、たいてい企業は出ていくコストと入ってくるリターンでパフォーマンスを決定します。しかし、この過程で無形のリターンが忘れられるケースがほとんどなのです。そこで、3Mのリビオ・デジモニの決断の功罪を表1に纏めました。表1の網掛部分が数値として読めず無視されてしまうことがあるのです。


表1 3M・CEOリビオ・デジモニの決断



 このケースでCEOリビオ・デジモニが短期的な収益として木だけを見ていたら、スーパー・スティッキー・ノートの商品は出来上がらず、全く別のものになっていたことでしょう。彼は製品を企業文化のトータル価値の体現として捉える森の部分と考えたのです。環境対応への努力は6年間を要したとはいえ、これを十分にカバーする成果(製造コスト半額、製造スピードが倍)をあげることができ、3Mブランドの強化に役立ったのです。
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■真の企業価値、真の環境対応

 ここで企業価値ということを考えてみます。例えばコカコーラの時価総額は1,150億ドルです。しかし帳簿上の資産は150億ドルにしか過ぎません。簡単にいえば、1,000億ドルは無形資産ということになります。現在のバランスシートは、ブランド価値、知的資本、社員の価値、サプライ・チェーンの価値等を反映しておらず、企業の正しい価値を表現できていません。
 この膨大な価値の背景があってはじめて、企業がパフォーマンスを残せているのです。と同様に環境対策を考える場合も、短期的視野で考え取り組んでみても成果は上がりません。逆効果にさえなりかねません。企業の文化生態系の中において一つ一つの商品を位置づけて対応すべきなのであります。
 多くの企業は、有形資産を上回る価値を備えています。よいブランド・イメージ、高い評判は成功のカギです。ブランドを傷つけるリスクには慎重に対処する必要があります。そしてブランド・バリューを高めようとするべきです。BPは、British Petroleumの名称をBeyond Petroleumに変更し、旧来との企業姿勢の違いを表しています。「石油を超えて」は、一つの記憶すべき事例です。


 環境に取り組めば新たなマーケットが開けることがお分かりになっただろうと思います。
 つまり、環境・健康・安全に関する私たちの知識やノウハウは、もう一つの営業戦力となるのです。消費者の求めるものと商品の特性がぴったり一致したとき、グリーン(環境)はゴールド(利益)に変わるのです。
 そんな取り組み、スタートさせてください!


理事長  井上 健雄

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