2007年9月の言葉
 生涯学習 
 不思議である。学生時代には、勉強などに興味は無かったのに、学校を出て、会社を離れ、独り立ちすると、やたらの知識欲や自分の無知に気付かされ、本屋さんに入れば2〜3時間はあっという間に過ぎてしまう。

 この夏の休暇で北海道に出掛けたのだが、札幌駅前の紀伊国屋に入り浸りで、何のリゾートか分からない日々を過ごしてしまった。
 しかし、脳内活性こそ最高のラスト・リゾートかも知れないのだが・・・

 いつまでもの日々学習。これを慣用語なら生涯学習というらしい。
 そこで今回は生涯学習について考察してみる。

 まず基本的な概念を整理しておこう。
 この生涯学習という言葉はユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の1965年第3回成人教育促進国際委員会で当時ユネスコの成人教育部長、ポール・ラングランが提言したものである。

 その勧告を掲載する。
 「ユネスコは誕生から死に至るまでの人間の一生を通じて行われる教育の過程―それゆえに全体として統合的であることが必要な教育の過程―をつくりあげ、活動させる原理として生涯教育という構想を承認すべきである。そのために人の一生という時系列に沿った垂直的な次元と個人および社会の生活全体にわたる水平的次元の双方について必要な統合を達成すべきである。」

 このラングランの考え方が、流布して20年。それなりに発展を遂げた生涯学習は次の課題にむけ新しい歩みを始めた。
 次に成人教育担当に就任したエットーレ・ジェルピが、今までの社会変化への適応主義的発想から、現状変革を目指す第三世界的発想への転換を打ち出し、第4回の「学習権宣言」に結実させている。
 人間抑圧の現実に喘いでいる、移民労働者、少数民族、女性など、社会的、教育的に不利な人々に学習権を与えることを提唱したのである。

 このように生涯学習も時代により、欧州であるとか、国によりいろいろなタスクや重点を持って展開されている。
 こうした経験から、日本でも1981年中央教育審議会が「生涯教育について」という答申を出している。ここに教育政策の中心課題に生涯教育が位置づけられることになった。

 わが国の生涯教育の特徴は次のように整理できる。
  1、 学校中心の教育体系が生みだした問題や歪みを改革する教育改革の原理として登場。
  2、 学習成果を地域に還元する。
  3、 市町村主義から広域方向化へのドライブを持っている。
  4、 地域が抱える課題を地域の人々の人づくりで解決に資する。
  5、 個別的学びの支援。

 ここまで、生涯教育の起こりから日本の取り組みまでを概説したのであるが、これらを踏まえて私の主張をいくつか提言したい。

1、 生涯学習とは、生涯にわたって学習するという自己主体で取り組むものであるということ。
2、 学びあう者同士(教師も含む)で、相互共有の知を生み出していくものであるということ。
3、 個人・参加者の主体性と行政の提供する生涯学習施設とのよい連携を保つべきである。
4、 学歴学校偏重社会の中でのいろいろな歪みに対して市民の「学習権」を地域に根付かすキーとして生涯学習施設を運営する。
 ※ この学習権を深く広く解釈し他の施設・図書館・ミュージアム・キッズプラザ・青年センター・人権センター・産創館等々の諸施設との連携・コラボレーションが必要である。
5、 生涯学習が提供すべき重点テーマとして次の内容を挙げる。
 (1) 保護者の為の家庭における子供の教育
 (例)躾教育
 (2) 環境問題教育〜まず地域課題からグローバルへ
 (例)都会のヒートアイランド対策とアクション
 (3) 市民に対する社会奉仕活動へのガイダンスと指導
 (例)NPOと共に社会を支える
 (4) 自然体験活動
 (例)エコツアー (例)むら・まち連携
 (5) 地域おこしとの連携
 (例)地域の伝統継承とイベント創造

 以上が私の考えるラスト・リゾートとしての生涯学習(施設)論である。
 互いに学習し、知識獲得を果し、その上で互いの研鑽で新たな智慧を生みだし社会貢献をする。
 それが地域おこしと個人の生き甲斐や健康に結びつけば万万歳である。
NPO法人 イー・ビーイング
理事長 井上健雄