2007年4月の言葉
 不都合な真実 ― 内なる自然版 ― 
 不都合な真実は、アル・ゴアの地球環境悪化を抉り出した啓発の映画であり、本としても出版されている。ダボスの世界経営会議でも「あれを視たか?」と話題を渫ったという。
 日本の温室効果ガス削減技術にも注目が集まったり、トウモロコシも食料かエネルギーかで議論を呼んだ。

 ある政治家にとって、また経済至上主義の経営者にとって、知りたくない真実である。知れば利益相反する行動を起こさざるを得ないから、不都合と名付けられている。皮肉的であるが、パンチ力あるいいネーミングだと思う。
 特にアメリカのブッシュ政権にとって、踏み込みたくない課題であろう。そのアメリカに何十年に一回というハリケーンが何度も本土上陸をしたのだから、真剣に考え直さざるを得ないだろう。京都議定書問題をはじめとする環境問題を政策の柱としてしっかり位置づけないと、政権の致命傷になる。

 「外なる自然」の大惨状を映し出したのが不都合な真実なら、「内なる自然」(私たちの身体)にとっての不都合な真実を告げるアル・ゴアは誰なのだ?
 それはNPO法人イー・ビーイングのライフケア第三者評価委員会ではないだろうか。

 ここで少し、内なる自然の現状を直視してみよう。二つ三つ例を挙げてみる。

一、  この内なる自然の象徴版として、エコツアーならぬ移植ツアーがある。これを21世紀の一大サービス産業になるというのだから恐ろしい。
 つまり世界的な臓器不足と経済格差を利用して、発展途上国における臓器移植をツアーとしたものである。
 悪名高いイスラエルでは、ザキ・シャピラ医師が主催する移植パッケージツアーがある。イスラエル厚生省は、これに保険適用まで認めている。専門医師とツアーコンダクターが同行し、チャーター機で家族一人とともにトルコか東欧のどこかで臓器移植を受けて帰ってくるのである。
二、  インドのハイデラバードの病院コンツェルン、アポログループがある。この国のキーワードは、先進国医療のアウトソーシングである。これを武器として、経済を活性化させようとしている。
 安価な医療費(アメリカの1/5)が受け、アメリカ、カナダ、ヨーロッパなど英語圏から患者が急増し、数年後には1,000億円を超えるとされている。
 臓器バザールというレッテルさえなくなれば、一つのグローバル化ではある。
三、  ヒト組織の売買である。
 アメリカではヒト組織の入手をNPOが行い、加工会社が買い入れ、多種多様な製品として加工し、カタログ販売されている。医療用ヒト組織が売買されている。例えば、ロサンゼルスのNPOパシフィックコースト組織バンクの理事長は、俸給6,400万円を得ている。
 また全米の治療用人骨の40%〜50%を供給するというニュージャージー州のオステオテク社はナスダックに上場し、社長の1998年の年俸は5,400万円である。
 このヒト組織がヤケド患者に使われるならまだしも、ファッションモデルの唇を厚くポヨポヨにしたり、目尻の皺とりや人骨を粉末化して差し歯のインプラントとして使われているのである。
 つまり遺体から皮膚、アキレス腱、血管、角膜等々が採取されている。そして乗用車のエアバックの機能検査やヘルメットの強度試験、スノーボードの締め具実験などに使用されている。

 これらは臓器移植法が産み出した産業と言えるのだが、これでいいのだろうか。
 現代医療や生命科学の現状を省みれば、個人に「内なる自然」としての身体の処分を任すことは、公序を破壊してしまうのではないだろうか。
 自己決定すればいいという自由主義思想と、人格を具現化する人体という法哲学との真剣な対峙が必要である。前者の代表がアメリカ、後者としてフランスがある。

 私はフランスのバイオポリティクス哲学を支持したい。
 先端医療についてのアジェンダを、正確でバランスあるものにすることが必要である。外なる『不都合な真実』の一つひとつから各種の環境関連法を整備してきたように、内なる『不都合な真実』から私たちは人体保護(哲学)法を創りあげていくことが望まれている
 例えば、被験者保護法、生体肝・腎・移植法であったり、個人情報・センシティブ情報区分や臓器以外の骨、皮膚、アキレス腱、血管等々をも規定を必要としている。

 こうした流れの中で、シビリアコントロールの役目を果たすNPOでありたい。それがライフ・ケア第三者評価委員会の志である。
 こうしたコンセプトを、小さい一つひとつの具体的な活動に昇華・分化させ、市民の一人ひとりが安全で安心して暮らせる社会を実現させたいと考えている。
NPO法人 イー・ビーイング
理事長 井上健雄