2006年8月の言葉
 ドン・キホーテ 
 夏は名作・力作・大作だ。
 これは古い学生時代からの習慣。一夏休みだけで300冊読んだ時もある。
 そんな記憶が夏には甦る。

 あぁ本が読みたい。休んで何日も何日も朝から晩まで……
 しかし最近は時に恵まれないので、名作リピートを夏に決めてやっている。

 すると面白い。
 あの頃、ドン・キホーテは、僕にとってアナクロニズムのおじさんに過ぎなかった。風車を巨人に、羊の群れを軍隊に、たらいを黄金の兜にと荒唐無稽さばかりが目についたものだ。
 しかし今読めば、ドン・キホーテのあの無鉄砲な行動は、キリスト教の受苦と同じようなもので、あらゆる苦難にあっても幸福を追求するアラブ・イスラム的なものであることが感じられる。

 ミゲール・デ・セルバンテスが生きた時代こそ、ヨーロッパには、3Rの風が吹きあれていた。

   1.Renaisance(ルネサンス)
   2.Reformation(宗教革命)
   3.Revolution(市民革命)

 この3Rに対し、スペインは反3R的で、親アラブ的、親イスラム的な原理に共感を示していた。
 それがドン・キホーテの行動を創りだしたと読めば、少し分かりやすい。

 こんな文脈で、スペイン・グラナダにあるアルハンブラ宮殿を見れば、その有様も人間肯定も頷(うなず)ける。
 正統主義だけでは世の中はおかしいんだという見方・考え方を分らせてくれる。
 ここで流れる基調はニセモノだけど本物だという思想。古いものの中に目覚めた新しい本物があるんだという考えである。

 スペインで初めて出たニセモノの兵隊、これがゲリラである。
 ゲリラ(ニセモノ)とナポレオンの軍隊(本物)との戦いは、ヒズボラとイスラエルの戦いの原型と透けて見える。
 本当に人って進歩しないなぁ。セルバンテスの洞察はすごいなぁ。と思う今日この頃なんです。

 皆さまもR.シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」をフリッツ・ライナー指揮のものを聴きながら読みませんか。それともタレガのギター曲「Recuer de la Alhambra」のトレモロに酔うのも一興です。

 読み返しは思わぬ発見と展開を見せるものであることが分かります。
 あぁ!本っていいなぁ!本当!


後日談であるが……

 「ドン・キホーテと反3R」を僕の教え子に話すと、「あのディスカウントショップはリデュース・リユース・リサイクルやってないですよ!」って応えてくれた。
 これって結構優秀なんですよね。
NPO法人 イー・ビーイング
理事長 井上健雄