2004年8月の言葉
 上海に遊ぶ 
 陽水の『なぜか上海』を口遊みながら、上海に降り立った。漢民族との本格的な遭遇を、ウラル・アルタイ語系の仲間として楽しもうという趣向である。ああ、胸が躍る。
 まず分かったことは、今まで持っていた既成の知識は風化しており役立たずということだ。ここでは新しい状況が、時々刻々に生まれ成長感に支配される都と言うことだ。その成長が著しければ著しい程、強烈なコントラストを社会に投影するものだ。このコントラストを三つの事象から説明しよう。
 黒縁でビール瓶の底のような眼鏡をかけ、パンツ一つでゴミ箱を漁っている人がいるかと思えば、裏ナカメ(不詳の方に、裏代官山と中目黒)のような娘が、ヒップホップ系を着こなし、雨ガエル色のスニーカーを履きこなしているという粋がある。そうここは、絶望に沈みゆく人々と、希望に燃える人々の共存する街である。
 もう一つの対照を観光地で見るとしたら、黄浦江のバンド(外灘)が面白い。浦東エリアは、地名どおり新世界を示しているし、西側は上海近代史(1906年〜1940年)を語る旧世界を現出させている。
 つまり上海では、未来と過去が至るところで対峙しているのである。
 三つ目の対比は、もう少し複雑だ。雲突くビル群の新世界は、大阪などまるで田舎の地方都市にしてしまう。この上海に魅せられマンションを買おう決心されるなら、新天地をお奨めしたい。邱永漢さんも最近、引越しをされと聞く。この居心地は、東京青山である。
 しかし、外側は完全に二十一世紀を実現しているが、内側(内部・インテリア・生活用具etc.)は、30年前の大阪という感じである。
 外の文明は発展しているが、内の文化はまだまだ成熟していない。
 光が鮮やかであればある程、暗さが際立つのは仕方がないことだろう。私はこんな街が好きである。
 中国の今後の為に、二つの課題を提示して置こう。
 この膨張する上海の最大のネックは、エネルギー問題であろう。
 不夜城、英語でEver Bright Cityとあるのに外のネオンもつかず、真っ暗闇である。内部の照明は点いているのだが。
 次のネックは環境問題である。
 8月中旬、夕方5時の太陽が直視できるのである。日本なら墨を塗ったガラスで見るものを、黄砂、大気汚染の影響だろう。風呂の水も都市ホテルなのに、川の水のように黄濁している。
 これらのソリューションの為、アジアの隣人として協力をし、自然エネルギー事業や環境保全活動事業を起すことは喫緊の課題である。
 建っているビルよりも建てている途中のビルの方が多いと誇張もできる程、建設の槌音が高い。関西で忘れていた成長という言葉を思い出させてくれる。
 さあ、この街と共に、私たちも正しい協働を進め、Win - Winの関係を築こうではないか。
NPO法人 イー・ビーイング
理事長 井上健雄