NPO法人イー・ビーイング
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2012年 エネルギー・資源学会誌
植物工場野菜の第三者評価
1.社会知として「信頼」を高める第三者評価委員会(TPAC)について
 現代において科学技術は,専門性を深めるとともに細分化し,一方で商品 (情報・サービス・管理システムを含む、以下商品と略す)は,多分野の知識・技術・知見の綜合化により成立している.
 こうした商品の群の中に置かれた消費者は,選択の手がかりとして,それら商品を客観的に評価してくれる社会的縁(よすが)を求めている.
 それには,各分野の知見を集め商品を綜合的に評価する専門家集団の編成が求められ,透明性・公平性・独立性をもって商品を360°の視野から評価する「生産物及び生産システム第三者評価委員会」(以下TPAC-PPS)が誕生したのである.この評価結果を社会知として世に問い,社会の共有財産に創りあげるものである.
 第三者評価委員会(TPAC)の適格性や運営の適切性については,2005年中央青山サステナビリティ認証機構(当時)による審査を受け,透明性・公平性・独立性の三原則をもって運営する第三者評価機構として認定を受けている.また組織内のチェック体制として,評議会を設けTPACの運営の客観性を担保している.評議会は,大学関係者の郡嶌孝氏(同志社大学経済学部教授),公認会計士の重森節夫氏,司法界から弁護士山田浩介氏など,十分な態勢を用意している.こうした客観的な枠組み(50数本にもなる文書・規定類を作成・運用)を厳格に守ることにより,このTPACは,社会的な信頼・信用を得るものと確信している.
図1 TPAC評価三原則と評価分野
図1 TPAC評価三原則と評価分野
 TPAC-PPSでは,商品を環境,安全・安心,ユニバーサル性,社会性という4分野において評価し,分散認知されていることを綜合知として評価する.
図2 TPACシステム体系
図2 TPACシステム体系
 本稿で紹介するTPAC-PPS植物工場生産物及び生産システム(以下,植物工場野菜の第三者評価)は,生産物の安全・安心に重点を置いている.また観点を変えると,身体障害者や高齢者も生産や運営が行えるユニバーサル性や,LEDの省エネや水の高生産性など環境側面にポイントをあてる評価もできる.
 私たちが今生きている「自由な時代」こそ,綜合知における第三者認証により商品の新しい価値・用途・機能などを評価し,潜在的な市場を顕在化し拡大することが,事業者・消費者・社会にとって有益であると考えるものである.
2.なぜ人工光型植物工場なのか
 なぜ植物工場野菜の評価・認証に力を注いでいるのかについて,少し説明を加えたい.
  1. 人工光型植物工場は,外界の光と熱を遮断する天井・壁等で構成され,施設は病害虫を防ぐ二重扉やエアシャワーにより守られている.栽培装置,環境制御機器などノウハウの詰まったシステム技術であり,播種育苗室,栽培室,作業室,倉庫,管理室など必要な環境制御が用意されて,作業の省力化や清潔な栽培環境を実現している.
    この人工光型植物工場は,日本の得意技であり,日産1万株以上の工場は世界にない.つまり量産化技術は日本がトップなのである.(同じようでも、太陽光利用の植物工場は,オランダに一歩も二歩も先んじられている.)
  2. 露地栽培では,基本的にポリフェノール,リコピン等々の表示取得は困難であるが,人工光型植物工場ならメリット表示が可能なのである.環境が整備されているうえに,植物の必要とする養液の活用システムなど生産物の再現性が高いからである.アイスプラントなど個別要素技術は,世界的にも自慢できるものである.
  3. 地球温暖化の影響かどうか分からないが,日本をはじめ世界中で異常気象が頻繁に起こっている.こうした自然条件に左右されない植物工場野菜は,安定的周年生産が可能である.
  4. 一方で,いろいろな食品が工場で作られているが,野菜については工場野菜の受けが悪く,「本当に大丈夫なの?」との危惧の声も多く需要に弱いものがある.
 こうした数々のメリットをもちながら,4の意見のように植物工場野菜はまだマイナーな存在である.そこで私たちは,植物工場野菜の持つ安全・安心と機能性をしっかり評価し,その生産物が世に受け入れられるようにすることが,日本の植物工場の技術競争力を高めることになるし,植物工場生産者にとって必要なことであると考える.
 消費者にとっては,安全を数値で示され機能性評価もされた野菜には安心感を持ち,購買意欲も高めることになる.
 また植物工場野菜は,今後も起こるに違いない異常気象に対する保険機能を持つものでもある.
3.TPAC-PPSマネジメントシステム図
 下記に掲げるTPAC-PPS規格要求関連図は,経営者の責任,食品安全チームリーダーの役割とTPAC事務局の役割,そして安全・安心情報の社会的に開示する枠組みをTPAC-PPS委員会が定めたものである.
 これはISO90001規格(一部)のマネジメントシステムと,HACCPと食品衛生の一般原則を取り入れて組み立てたものであるが,本稿では紹介に止める.
図3 TPAC-PPSマネジメントシステム図
図3 TPAC-PPSマネジメントシステム図
4.植物工場野菜の第三者評価の枠組み
 植物工場野菜の第三者評価では,3つの評価項目を設けている.
  1. 生産物(野菜)と養液について安全・安心評価
  2. 生産物(野菜)についてのメリット評価
  3. 生産システム(工場)の再現性
である.
 これらの評価は,斯界の権威の方々の知見を評価委員会で討議し,基本的に全会一致で結論を出す.
4.1 安全・安心評価(生産物と養液)
 安全・安心評価では,第一に生産物が身体に害のない安全なもので,安心して食べられるかどうかを評価する.一般生菌,大腸菌群などについて,検査機関の検査結果をもとに,評価員が綜合的知見により評価・認証する.
 また,養液については生菌数などに加えて硝酸イオン,重金属や農薬,場合によっては放射性物質についての検査結果をもとに評価・認証する.
 養液は肥料成分と濃度(EC),pH,水量,流速,溶存酸素などをコントロールし,生育や栄養価の管理を行っている.光や温度,水流とともに,大きな役割を果す養液の安全性評価は大変重要である.
4.2 メリット評価(生産物)
 生産物のメリット評価では,もう一歩踏み込み,おいしさや栄養豊富で身体に良いなど,野菜の付加価値となる機能性や栄養面でのメリットについて評価を行う.糖度やビタミンA・B・C,抗酸化力,ミネラル,硝酸イオンなどについての検査結果をもとに,実際にどれだけのメリットを備えているかを評価・認証する.成分の安定を保証できない露地物には表示できないもので,植物工場野菜の持つ優位性の一つである.
4.3 再現性審査(生産システム)
 生産物の評価だけでなく,その工場(生産システム)が安全・安心でメリットを備えた生産物をいつでも同じ品質で生産できるか(再現性)についても評価する.再現性審査として評価委員会が特定したTPAC-PPS審査がある.この審査では,再現性システム文書として,工場運営マニュアル等一式を提出してもらった上で事務局(委員)が工場に出向き,再現性を実査する.(TPAC-PPS審査とは,ISO22000:食品安全マネジメントシステムを参考にTPAC委員会が作った規格をいう.)
4.4 認証レベル
 認証レベルゴールド,シルバー,ブロンズの3つのレベルが設定されている.
 ゴールド認証は,TPAC-PPS審査により,いつでも同じ安全・安心野菜を生産できることを認証する.工場実査では,提出されたマニュアル等の内容が確実に周知徹底・運用されているというパフォーマンスを確認する.
 シルバー認証は,再現性実査により,いつでも同じ安全・安心野菜を生産できる仕組みを認証する.
 ブロンズ認証は,生産物と養液の安全・安心を認証する.
表1 評価項目と認証レベル
生産物(野菜)と養液生産システム(工場)
安全・安心評価メリット評価再現性審査TPAC-PPS審査
ゴールド
シルバー
ブロンズ
 評価委員会では、これらの認証を行い,その証明としてTPACの認証書を発行する.
 ゴールド認証を受けた野菜は,TPACマークを商品毎に添付することができる.TPACマークは安全・安心が保証された,付加価値の高い野菜のマークとして,消費者に他の商品との差別化を一目で伝えることができるものである.またTPACマークにつけられたQRコードから,TPACマークの認定の基準をクリアしたことや,その野菜のメリット・評価内容などの情報が得られる.TPAC専用HPより,認証企業の確認や責任者の声など,深い情報を広く閲覧できるようになっている.(追記)現在3社の審査に入っているが,それらが完了次第のアップとなる.
図4 認証書例
図4 認証書例
5.検査項目
 安全・安心評価,メリット評価の検査項目は,野菜の種類によって異なるが,葉野菜・レタス等の場合は以下の通りである.
表2 葉野菜・レタス等の検査項目(例)
生産物養液
必須推奨選択必須推奨選択
安全

安心
評価
(A)一般生菌
大腸菌群
腸管出血性大腸菌(O157)
サルモネラ
ノロウィルス
黄色ブドウ球菌
腸炎ビブリオ
赤痢菌
硝酸イオンセット
(B)有害重金属(5種)
ヒ素,カドミウム,鉛,クロム,水銀
農薬検査
(250種一斉分析)
放射性物質
(ゲルマニウム法)
メリット評価糖類セットレフブリックス
HCLCセット
ビタミンAカロテンα
カロテンβ
ビタミンBB1 チアミン
B2 リボフラビン
ビタミンC簡易
精密
リコペン
ミネラルセット
ペプチド
抗酸化力
硝酸イオン
オプション官能検査
(この項目は,大きく2分され,安全・安心評価とメリット評価がある.受審企業が希望すれば,オプションの官能検査結果を評価に加えることもできる.)
 安全・安心評価の検査項目は,13種類.(有害重金属5種,農薬検査250種をそれぞれ1として)必須項目は必ず検査が必要で,推奨項目は評価委員会が検査を奨めるものである.
 メリット項目は9種類あり,基本的にその野菜が含有すべき機能項目を評価委員会の推奨としている.また,受審企業により機能項目で自信あるものを選択いただくことも可能とする.
 放射性物質検査(養液)は,現時点において推奨するもので,条件等(放射能に対する懸念が低くなるなど)により選択に入ることもある.地域により生産物も対象となる.
6.評価・認証に必要な書類
 必要書類は,以下のとおり.企業内の名称差は差支えない.
6.1 全ての評価・認証に必要な書類
  1. 検査機関による検査結果
    • 安全・安心項目検査結果(厚生労働省認定機関であること)
    • メリット項目検査結果
6.2 ゴールド認証,シルバー認証に必要な書類
植物工場関連文書及びマニュアル・チェックリスト等
  1. 植物工場管理組織体制
  2. 経営層の責任(権限)
  3. TPAC-PPSチームリーダーの責任(権限)
  4. 運用体制チェックリスト
    1. 植物工場管理の基本チェックリスト
    2. 2S(整理・整頓)チェックリスト
    3. 服装チェックリスト
    4. 教育訓練チェックリスト
  5. 管理・作業マニュアル
    1. 管理マニュアル
      種,苗,定植,養液管理,収穫,包装,流通の各作業毎に作成する.
      ※食品衛生新5Sを参考にすること.
    2. 作業マニュアル
    3. 是正・予防処置マニュアル
  6. 導入装置の機能,扱いマニュアル
    メーカーの説明書や装置マニュアル等
  7. 非常時対策要領等
    1. 非常時または災害時の情報伝達と復旧方法の記述
    2. 関係機関との情報の取り扱いに関する協定等(免責事項の記述など)
    3. 関係機関との連絡の確認方法の取り決め
    4. 夜間・休日における点検およびトラブル対策
      (情報伝達にかかる時間を把握,代行想定など)
  8. トラブル管理
    1. トラブル管理実践例
    2. 異物混入対策
    3. 害虫対策
  9. 苦情管理
  10. TPAC-PPSマネジメントシステム図
7.評価認証スケジュール
図5 評価・認証の流れ
図5 評価・認証の流れ
 第三者評価委員会の認証スケジュールは,
  1. 認証評価(初回)
  2. サーベイランス(認証から6か月後)
  3. 認証継続評価(認証から1年後と次年度)
  4. 更新評価(3年目)
となる.
 1,4の認証,更新評価の内容は,基本的に同じであるが,更新評価の場合,パフォーマンスの精度が高くなる.
 2サーベイランスでは,生産物の安全・安心評価(必須)の検査数値をもとに,規制値であることを確認する.
 3認証継続評価は,2にメリット評価(推奨)を加えると共に,マネジメントのP→D→C→Aが回っているかを文書レビューで確認する.
8.人工光型植物工場生産物及び生産システム評価委員会主要評価員
  1. 評価委員長
    • 野口 伸(北海道大学大学院 農学研究院 教授 生物資源生産部門,日本生物環境工学会 会長,農学博士)
  2. 特別顧問
    • 川地 武(サウンドソイル研究所 所長,滋賀県立大学 名誉教授,農学博士)
  3. 委員
    • 清水 浩(京都大学大学院 農学研究科 教授 農業システム工学,農学博士)
    • 片山 直美(名古屋女子大学 家政学部 食物栄養学科 准教授,医学博士)
    • 有井 雅幸(東京デリカフーズ株式会社 経営企画室長,野菜ソムリエ,食生活アドバイザー,薬学博士)
    • 久原 研(イー・ビーイング客員主席研究員,弁護士)
    • 井上 健雄(イー・ビーイング 理事長)
  4. 事務局長
    • 井上 明子(イー・ビーイング)
9.Land-Eco評価から分る綜合知見の必要性
 第三者評価システムは,2005年に開始した土壌第三者評価委員会,Land-Eco評価から始まっている.
 そこで土壌汚染の調査や浄化対策についての正確性を問うLand-Ecoについて若干触れてみる.
 Land-Eco評価を重ねると,現状の汚染調査・対策の課題が浮き上がってくる.課題とは,汚染調査・対策に取り組む場合に,土地情報・地盤情報について調査・分析が不十分なことである.過度の溶出量・含有量の羅列になったり,間違った技術対策や掘削だけを解決策にしてしまい結果として,高コスト・高リスクの土壌を残している.
 本来調査すべきポイントは,土地履歴として,土地造成の際にどこから土を持ってきたのか,工場使用された場合にどんな工程でどんな材料・薬剤等がどこで使われたかを調べることである.また地盤情報として,地層構成,不透水層の位置,地下水位,帯水層の位置,地下水勾配,透水係数等をしっかり調べることである.こうした調査により,リスク経路や汚染範囲を特定することができ,施工法の選定,施工,施工管理,終了判定も高い確率で適切なものになる.
 しかしこのような調査,施工には分野横断的な綜合知見が必要となる.大企業であれ,また知見の高い集団であれ,こうした幅広い専門分野を綜合し取り組める所は少ない.限定分野から調査・対策した結果で契約行為を行ってしまい,大きな損害や健康リスクを発生させてしまった例が多く,残念なことである.
10.人工光型植物工場第三者評価委員会の役割
 植物工場についても,綜合知の必要性は高い.
 本稿で紹介した植物工場評価システムは,Land-Ecoの経験・実績を基礎にブラッシュアップしたものである.
 Land-Ecoの知見を持つイー・ビーイングが今後,有望な展望のある植物工場とその生産物の正しい成長をできるようにと第三者評価の枠組みを提示し,村瀬治比古(大阪府立大学大学院工学研究科教授)先生,野口伸(北海道大学大学院農学研究員教授,日本学術会議会員)先生等と議論を重ね,TPAC-PPSとして作りあげた.
 私たちの第三者評価委員会は,日本の人工光型植物工場の技術が世界において秀れたものであり,その生産物は,安全・安心で栄養成分・機能性成分をもつものであることを広く伝えることになればと考えている.
 評価委員会の役割を整理すると以下のようになる.
  1. 世界トップ水準にある植物工場の技術を評価し,グローバル・マーケットにおいても確たる競争力をもつ為の,社会的認知度の向上.
  2. 安全・安心だけでなく,栄養成分・機能性成分のメリット評価を行うことにより露地物ではできないメリット表示が可能となり,野菜の価値訴求を後押しできる.
  3. 今後続々と生産可能になる機能野菜(アイスプラントや薬効性のある野菜)の個別要素技術の進歩を世に紹介する.
  4. その他,植物工場野菜のメリットの認知度向上
    • TPAC認証を受けた野菜は無洗で食することができる.
    • 周年生産や多段栽培,LED利用などによりコスト生産性及び綜合価値というパフォーマンスを高めていくことになる.
 評価委員会の委員長,野口伸先生は,人工光型植物工場とその生産物(野菜等)のあり方について幅広い視野から問題点を整理され,その上で植物工場の持つ意義・展望を非常に明解に纏めておられる.野口先生のお言葉をこのレポートの掉尾としたい.
 植物工場は日本政府が進める農商工連携のシンボリックな事業の一つとして近年注目されている食料生産技術です.生産物を計画的かつ安定的に生産・供給できる植物工場は地域の産業振興の観点からも注目されています.
 特に閉鎖環境で太陽光を使わずに環境を制御して植物の周年・計画生産を行う人工光型植物工場は農薬フリーな生産を可能にし,理論的には極めて安全な生産物を消費者に供給できます.また,生産物の栄養成分や機能性成分を安定的に高めることが可能なことも科学的に明らかにされつつあります.
 しかし,植物工場で生産された生産物がすべて本当に安全で安心か,またすべての植物工場が本当に生産システムとして適切に管理・運営されているかについては残念ながら断言できません.この理想と現実のギャップが消費者の不信感を生む根源なのです.
 消費者の不信感を払しょくできる生産物や生産システムの安全性を保証するためには,透明性・公平性・独立性が担保された第三者機関による評価・認証しか方法はありません.この点で,TPAC-PPS人工光型植物工場第三者評価委員会は重責を担っています.
 人工光型植物工場を安全な生産物を生産できるシステムとして社会に認知させ,普及させることができるかどうかはこの第三者評価委員会にかかっているといっても過言でありません.
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