NPO法人イー・ビーイング
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イズミヤ総研 環境エッセイ 「地球の限界 ⇔ 企業の選択」 第6回
愛される小売業のために
 消費者にとって、「消費せざるを得ないのであれば、どのように消費するか?」が問われ始めている。その解答を一番目にしやすい場所が、小売りの店頭である。
 今や大多数の消費者は、ムダを嫌い、有害物質を忌避し、再生可能資源を評価し、CO2を出す生活を厭がっている。
 従って小売業が、環境にやさしいおしゃれな生活(LOHAS※1)の提案が出来れば、地球環境への非常にパワフルな援軍になれるし、消費者の味方にもなれる。そうした結果、お客様の支持も利益もというwin-winを築くことができるのである。

 電灯をこまめに切れとか、水を出しっ放しで使うなとか言われれば、時々「私一人がしてどうなる。もう止してくれ…」と言いたくなるかもしれない。
 これらの人々に申し上げたい。マーガレット・ミードという人類学者の言葉を。
 「思慮深く意識の高い人々による小規模な集団は、世間を変える力を持っている」
 例えば店舗の従業員数人から数十人が地域の消費者に喜んで貰う活動をすれば、地域が良くなり、店が良くなるという最初の一歩をスタートさせることになる。
 その活動の基礎は、自然の営みを活かした環境充実活動に置くべきである。化学肥料・農薬たっぷりの農業は、短期的には実りを約束するかもしれない。しかし土地は痩せ、微生物は死に、水質は汚染され、未来への負債を増しているだけである。人々の短期的な視野の行動は、地球の温暖化を進行させ、洪水、山火事、水質汚染、藻の発生、酸欠海域を作るなど、問題の種を殖しているだけである。
 一本の木を考えてみよう。葉を茂らせ、光合成を進め、その木陰が水の蒸発を少なくし、落ち葉は分解されて腐葉土となる。一本でエレガントで複合的なエコシステムを形成しているのである。こうした木のような店づくりができれば、そこには地域の愛顧と繁栄が待っている。
 こうした複合的なエレガント・システムの例として、3社を紹介する。

※1 LOHAS(Life Style of Health and Sustainability)
環境と健康に関心が強く、社会に対する問題意識や自己実現等に関心が深く、その為の行動を起こす人々。
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■ウォルマート

 ウォルマートをエレガントと言うには少し違和感もあるが、あの巨大な売上が創造するエコ活動・社会貢献を垣間見てみよう。
 米国内のスーパーセンター(2,074店)だけでも、電気使用は31億14万kwもあり、サンフランシスコ市に匹敵する。こうした厖大な量は、逆に省エネをすれば、巨額な利益として帰ってくることを意味する。
 トラックの燃費効率2倍化への取り組みは、年間3億ドルの経費節約を生み出している。また冷蔵ケースに扉をつけ負荷を70%削減したり、ケース内蛍光灯をLEDに変えメンテナンスコストを下げたり、白熱灯等から電球型蛍光灯への切り替えだけで電気代700万ドルの節約となっている。
 また社会貢献として、店舗開発に1エーカー使用するごとに野生生物生息地1エーカーの保護地を設けたり、また希少な魚、動物、植物資源保護の為に3,500万ドルを拠出したりしている。厖大な投資には、それに見合う社会コミットメントを果たす能力を合わせ持つことを要求されているとも言える。
 風力発電、太陽光発電など再生可能エネルギーを活用したり、店内の料理用油や自動車のサービスセンターから回収したエンジンオイル用い、バイオ燃料ボイラーで店内暖房を供給している。
 ウォルマートのウェブサイトを開くと、「サステナビリティへの道−旅の始まり」と題した消費者参加型のコーナーまである。消費者の生活を愛することが地球を救い、収益を増加させているのである。
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■ニューマンズ・オウン

 オーガニックについて触れ、それぞれの企業において戦略組み立ての材料として考えて戴ければ幸いである。
 ニューマンズ・オウンとは、あのオスカー俳優ポール・ニューマンの娘のネル・ニューマンが設立した会社で、ポール・ニューマンの自家製の美味しいサラダドレッシングを食品化して販売している。こう書けば「それがどうした?」になるだろうが、この販売による収益は、100%慈善事業に寄付されていると書けば、少し感触が変わらないだろうか。
 細かい経緯はいろいろあるが、娘のネルは親の影響もあり、1993年、ビジネスパートナーのピーター・マーリンと共にニューマンズ・オウンの一部門として有機食品事業を立ち上げたのである。そしてフェアトレード運動や有機養鶏への支援など、社会運動に熱心に取り組んでいる。
 ニューマンズ・オウン・オーガニックスの商標で売り出された最初の商品は、オーガニック・プレッツェルであり、大ヒットを飛ばし、次の有機チョコレートもヒットとなっている。熱帯雨林を傷つけずにカカオ栽培できる手法で生産されたカカオを使用したチョコレートを作ることで、持続的な農法を支援しているのである。
 こうした幅広い食品事業から得られる利益を慈善運動に寄付し、その額は2億ドルにも達している。
 大手流通なら、日本の新しい有機食品事業を支援したり、その利益の一部を社会事業にファンディングなり、寄付等すれば、社会貢献企業として信頼を得られ、お客様からの愛顧も得られるものと思う。特に、日本の食を有機食品で満たしてゆくことは、日本の農地を再生させ、食料自給率を高め、安全・安心の食品を提供できることとなる。日本のニューマンズ・オウンを是非、創造して欲しい。
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■アイリーン・フィッシャー

 グリーンファッショナブルを標榜するアイリーン・フィッシャーをご存知だろうか。
 本店は、ニューヨーク州のカービントンという田舎町にある。2007年春のコレクションでは、有機商品が10%を占めている。聞くところによると、このシェアは、昨年の倍らしい。
 非上場なので売り上げ等は発表されていないが、2006年は2億2千500万ドルの売上で、昨対83%増という好調さである。
 ちょっとHPを覗いて下さい。http://www.eileenfisher.com
 オーガニック・コットンの畑中をエコツアーしている従業員が出てくる。そう、おしゃれである。
 この企業は三つの特徴がある。
一、ファッションセンスに秀れている
二、商才に富んでいる
三、社会的に意義ある活動に深くコミットメントしている
 天然の麻、シルク、オーガニック・コットンなどを強化し、地球の健康と人の幸せを維持しようとしている。これがグリーン・ファッショナブルの意味である。製造工場は中国、インド、ペルー、ウルグアイ、ニューヨークにあり、どこの工場に対してもSA(ソーシャル・アカウンタビリティ)8000※2の順守を要求している。その他、独自に二社の社会コンプライアンス監査法人と提携し、アメリカから海外の職場までの監査をしている。また2000年には、自主的な助成金プログラムや店内イベントを通して、89万ドル以上の現金や商品をNPO法人に分配などしている。
 アイリーンおばさんは、なかなかの凄腕経営者である。
 繁盛している事業には、必ず独自の文化があり、独自のミッション・ステートメントによる商品展開があり、独自の社会奉仕プログラムを持っているものである。
 こうした結果、アイリーン・フィッシャーは消費者の期待を超えた企業になっているのである。

※2 SA8000(Social Accountability 8000)
ソーシャル・アカウンタビリティ(社会説明責任):米国のCSR評価機関による、労働市場での労働者の基本的な人権の保護に関する規範。
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 ■愛される小売業のために

 このレポートのまとめは「愛される小売業のために」といういかにも泥臭く、直截な表現となったが、小売業への深いコミットメントと汲み取って貰えれば有難い。

1. 小売業は、店舗の位置する地域社会、地域の人々、地域の産物を重視しなければならない。
 地域の良い特徴を伸ばせるように援助し、地域のウィークポイントを小さくするように努めることが地域貢献というものである。地域を豊かにし、コミュニティ形成の核として店舗が機能するならば、その店は愛されていると言えるだろう。つまり小売業は、主たる店舗群のある地域の良きローカリティを磨きぬくことがその存在理由となる。
(補足) ステーク・ホルダーの中でも地域社会、地域住民が非常に重要なステーク・ホルダーになってきている。こうした意味で地域に対処できる組織構造や組織権限、人の育成こそが最優先されるべきなのである。だから店舗責任者は他の地域から通勤するのではなく、その地域に住むべきなのである。

2. 優れた商品のみを販売する。
(商品を販売するならその商品の背景まで考察すべきである)
ex. a. 農産物なら有機栽培されたもの、慣行農業より優れた高品質農業により生産されたものを販売する。一例を挙げるなら、ミルクを売るなら、牛さんがまず健康な状態に置かれていることを確認し、汚染されていない餌を食べていることを確認する。そしてその為に企業がしている行動をお客様に伝える。
(補足) 牛のメタン放出管理から販売容器まで目配りできれば満点である。
b. 衣料もオーガニックコットンやシルクや麻とか、染めも自然の材料でとか、環境と人にやさしい素材に注力すべきである。そうすると基本的にデザインもシンプルで縫製も質の高いものを用意すべきなのである。
(補足) こうした商品は仕入れるのではなく、生産者と一緒になってマーチャンダイズすべきなのである。それも大量マーチャンダイズではなく、適量マーチャンダイズで買取り責任を持つべきなのである。
c. 電機製品等は省エネ性能のものを中心に、省資源、リサイクル材を活用したものを優先させる。
(補足) こうした商品は多分、単品レベルでは扱われているであろう。しかしここで重要なのは、企業として、店舗として、これらの商品をお客様のLOHAS生活の為の生活カテゴリーとして打ち出すべきなのである。

3. 地球の温暖化対策や少子・高齢化への対応などの国民的課題を社会、消費者と共有し、その問題解決への取り組みと啓発に努める。
 店舗づくり、商品づくりについて再生エネルギー(太陽光発電、風力発電…)の導入や3Rの取り組みを充実させるとともに、保育所や介護事業についても、象徴的事業として実施すること(立地etcを考慮)も重要である。
 このミッション遂行能力が、企業の質を高め、地域社会に愛され、意欲的な従業員を育てることになり、結果として強力なマーケッティング力ともなり、売上・利益を底上げしてくれるものと確信する。

4. 運営する店、企業の出すCO2排出について説明責任を果たすべきである。
 出来る限りCO2のオフセット(例:ノートの販売量に応じた植林を地域学校とする…)とか、フードマイレージの取り組みを紹介し、短いフードマイレージにアドバンテージ(近郊農家のものを少し高くても買う…)を用意し、地産地消へのリーダーシップをもつとかである。つまりお客様と一緒になってCO2削減に取り組むべきなのである。
 大阪の伝統野菜も考慮されるべき要因である。

 こうした取り組みが戦略として認知されたうえで、小集団からスタートし、店から、商品部から、企業全体に波及してゆけば、お客様の期待を超える企業として着実な成長を遂げることになろう。


理事長  井上 健雄

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